後ろの、(黒子)


※病みネタ、キャラ崩壊注意


「     」


誰かの声が、何時も私の頭の中で響いている。何を言っているのか聞き取ることは出来ないけれど、それはまるで私に語りかけるように、諭すように、注意するように――


「……名前?」


どうかしたんですか、と心配そうに覗き込む彼に何でもないと微笑むと、そうですかと安心したように彼も顔を綻ばせた。


「名前が読書なんて珍しいですね」

「まるで普段本読まない人みたいに言う…確かにテツくんに比べたら読んでないに等しいけどさ」


私の膝に乗せられた文庫本を見てテツくんが呟く。
学生時代、文学少年だった彼は今も尚その肩書きは健在で(と言っても少年と呼べる歳は疾うに過ぎたけれど)図書館から本を借りてきて家で読む事も少なくない。


「ところで何を読んでいたんですか?」

「これ?殺人犯に監禁された女子高生が殺人犯に恋する話だって。題名に惹かれて買ってみたけど有り得ないよねぇ」

「なるほど、ストックホルム症候群が題材なんですね」

「ストック…?」


ストックホルム症候群です、ともう一度言い直された聞き覚えのない言葉に私は首を傾げる。テツくん曰く犯罪被害者が、犯人と一時的に時間や場所を共有することによって、過度の同情さらには好意等の特別な依存感情を抱くことをいうらしいけど、イマイチ納得出来ない。


「本当にそんなこと起こるのかなぁ」

「僕は精神医学とか詳しくないですけど、でもあると思いますよ」

「色んな本読んでるテツくんがそう言うならあるのかなぁ」


既に興味をなくした文庫本をテーブルに置き、代わりに財布を手に取る。もうすぐスーパーのタイムセールの時間だから、とテツくんに告げてから夕飯の材料を買いに外へ出た。
今日はじゃがいもがセール品であったので献立はコロッケにしようか…でも肉じゃがも最近食べてないから捨て難い。むむむ。
悶々と考えているとスーパーの手前で何やら人だかりが出来ていて、興味本位でその人だかりを覗く。何かの撮影をしているみたいで知ってる芸能人見れるかな、と見渡せば見知った金髪長身な男性が目に入った。


「黄瀬くん!」


中学時代クラスメイトで、高校時代もバスケを通して交流していた友人の姿があって思わず声をかける。昔雑誌のモデルをしていた彼は、最近では俳優としても活動しているみたいでテレビでもよく見掛けるようになった。

私の声に反応して振り返った黄瀬くんは、私と目が合うや否や目を見開いて此方に駆け寄ってきた。
高校卒業してから会ってなかったから、何年振りだろうと懐かしさに浸れば強い力で掴まれる腕。


「今までっ、どうしてたんスか…!心配したんスよ…!」

「え、どうしたの黄瀬くん?え?何?」

「何って…名前っち、5年前行方が分からなくなって連絡も取れなくなって…何か事件に巻き込まれたんじゃないかって…俺も桃井っちもみんな心配して…っ!」

「何、を…言っているの…?」


黄瀬くんの言ってることが理解出来ない。行方が分からない?事件に巻き込まれた?何を言ってるんだろう、私はずっと恋人のテツくんと暮らしているのに――恋人?


――――あれ、私達何時から付き合い始めたんだっけ?


今はテツくんと暮らしている事を告げれば、みるみると青くなっていく黄瀬くんの顔。そんなまさかと呟く黄瀬くんが何故だか怖くなって、覚束ない足を叱咤しその場を駆け出す。背後から私の名を呼び引き止める黄瀬くんの声を無視する形で。

黄瀬くんの言葉のせいか、将又全力疾走での酸欠のせいか、頭がガンガンと割れるようで思わずその場にしゃがみ込む。


ニ ゲ テ

「名前」


私の名前を呼ぶ声に、しゃがみ込んだままゆっくりと後ろを振り返る。

嗚呼、どうして今まで気付かなかったんだろう。あの声はあんなにも警告していたというのに――


「ね、本当にありましたよね?」













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軽くホラーな文章を書きたかったのに、私の文才ではこれが限度でした。場面転換急すぎしにたい。そして無駄に長すぎる。

補足すると最初は監禁されていたヒロインですが、極度の精神的ストレスにより、何時しかテツくんと同棲してると記憶がすり変わって普通に生活していた…というお話でした。
実際のストックホルム症候群は多分記憶のすり変わりとかないと思いますが…すみません捏造です。


20120804
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