「出来た…!」
香ばしいバターの薫りのするタルト生地の上には色とりどりのフルーツはまるで宝石のように煌めいて。その宝石の上にデコレーションしたチョコレートプレートを乗せれば完成。
“HAPPY BIRTHDAY”と書かれたプレートの乗ったそれは、見ただけで想像は容易いが誕生日ケーキだ。
今日は私の大切なパートナーの誕生日。彼は摂取カロリーに人一倍気をつける人なので(それはもう女の私よりも)フルーツタルトを作ってみた。以前何処かのサイトで、ダイエット中にケーキを食べるんだったらクリームたっぷりの物より、フレッシュフルーツ沢山のクリームが少なめのものが良い、と読んだことがあって。
しかし、タルト生地の時点であまり意味がないもするけど…カロリー低めのチーズケーキを誕生日ケーキにするのは味気ないし…良いよね。
片付けをしようと持ち上げたボウルには余ったカスタードクリーム。一瞬思案して食べてしまおうと人差し指でそっと掬う。行儀悪いけどスプーン取りに行くの面倒だから仕方ない。
「ん、我ながら美味しい」
「それは良かったですね」
「ト、トキヤ…!?」
いつの間に帰って来たのと上擦らせれば、今し方です貴女は気付かなかったみたいですがと私とは正反対なトキヤの冷静な声。トキヤは耳を押さえる私を楽しそうに一瞥して、私の向こうに視線を移した。
「ほう…意外に上手いものですね。貴女がお菓子を作っているところを見たことがありませんでしたから、てっきり作れないものだと思っていました」
「え、お菓子はよく作ってるよ?ただトキヤにあげてないだけで」
「……どういうことです?」
「だっていつもカロリー気にしてるじゃん。この間だってグルメレポートの仕事の後“私の完璧な計算が…!”って殺気立ってたし。だから作ったお菓子は全部音也達にあげてる、の…」
私は顔を上げたことを後悔した。般若のように恐ろしい顔した彼は、私の視線に気付くとお仕事張りの笑顔を浮かべて。…嗚呼、嫌な予感しかしない。
「私は、貴女の作ったお菓子を食べたことがありませんから…味見させて下さい」
そう言ってトキヤが指したのは、ボウルの中に残ったカスタードクリーム。じゃあスプーンを持ってくると彼から離れようとすれば、腕を掴まれ制される。
「先程貴女が食べていたように、指で掬って私に食べさせて下さい」
「ト、トキヤ…それは…」
「おや、出来ませんか?」
口調は至って穏やかだけれど、トキヤの目は全く笑っていない。身の危険を感じた私は、彼の言う通り指でクリームを掬って怖ず怖ずと彼の口許へと近付ける。
「いい子ですね」
ではいただきます、とトキヤが私の指を食む。彼の舌が私の指先をなぞり、甘噛む。クリームなんて疾うになくなってるだろうに、止まないどころかエスカレートしていく行為。声や息が漏れてしまうことに羞恥を感じながら、目の前の彼に必死に抗議する。
「ねぇ、トキヤ…もうやめて…っ」
「それは出来ませんね。これは、お仕置きですから」
「ごめ…次から作ったらちゃんとトキヤにも渡すから…っ」
「是非そうして下さい。私は貴女の作った物ならなんだって食べますよ」
満足したのか、そう言ってトキヤは私の指から口を離した。
息を軽く整えてから、超高カロリーのものでも?と尋ねれば、一瞬思案しながらも善処しますと答える彼に笑みが零れる。
「消費するの大変だよ?」
「私を誰だと思っているんですか?食べた分のカロリーはきちんと消費してみせます。ですから、その…音也達には…」
「トキヤって…案外嫉妬深いよね」
「……幻滅しましたか?」
「ううん、大好き」
私の言葉に、豆鉄砲を喰らったように目を真ん丸くするトキヤが可笑しくて笑う。良いとこも悪いとこも引っくるめて、私はトキヤが大好きなんだよ。
「ねぇ、トキヤ」
「なんですか?」
「誕生日、おめでとう」
私の言葉にありがとうございます、と微笑むトキヤが愛しくて。
嗚呼私は幸せだな、と彼の胸に頭を預けた。
TEMPO FELICE
(って、トキヤさん…?この手は…?)
(おや、まさかお仕置きがあれだけで済むとお思いですか?)
(………お手柔らかにお願いします)
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思いの外長くなってしまい誕生日には間に合いませんでしたが、愛だけは詰めました。トキヤさんに言わせたい台詞も詰めました。結果、迷走したとか気のせいです←
最近は先輩やHE★VENSに騒いだり、夢を書いたりすることが多いですが、やっぱり私は一ノ瀬さんが一番好きです。
20130807