03



「それじゃあ、お先」

「お疲れ様です。ありがとうございました」


最後の一人を見送ったところで、私も荷物を纏めて支度をする。
次の予定はHE★VENSのみんなと事務所で打ち合わせ。腕時計で時間を確認する。急ぐ程の時間ではないけれど、何処かでお茶をする時間はなさそうね。
鞄を持ち扉を開けば、丁度同じタイミングで隣の部屋から出て来た人物に目を見開く。


「あー、怜香!」

「ナギ!奇遇ね」

「怜香の仕事も此処だったんだー!ね、一緒に事務所行こーよ!」


ナギの言葉に断る理由がない私は、二つ返事でナギと並んでロビーへ向かう。
タクシーに乗り込んでからは、ナギが今日の仕事を身振り手振りを付けて話してくれて。その様子は大変微笑ましく、私は相槌をうちながら笑った。
以前はやること全部が詰まらなく感じていた…という話を本人から聞いたことがあるけれど、今の生き生きしているナギを見ていると、彼にはアイドルをやる天賦の才があったんだなぁ…と感じざるをえない。

そんなことを考えていると、今まで楽しそうに話していたナギが「あっ」と呟いて話を止めた。どうしたのかとナギの視線の先を追えば、遠くに赤く揺らめく提灯と賑わっていそうな屋台が目に入る。
そういえば何処かで祭の貼紙を見た記憶があるけれど、今日だったのね。


「わぁー、お祭りやってるー!怜香、行こう行こう!」

「ちょっと、ナギ。あんまり時間の余裕ないんだから」

「………ダメ?」


上目遣いで首を傾げるナギに、内心溜め息を吐く。全くこの子は、自分の可愛さを熟知した上でそういう仕種をするから質が悪い。アイドルをやる上では武器だけれども。


「………あざといわよ、ナギ」

「僕、怜香と一緒にお祭り行きたいなぁー」

「………ちょっとだけだからね」


わーい!と喜ぶナギを横目に、私は運転手に道を戻ってもらうように伝え、瑛一達に少し遅れる旨を連絡した。







祭をやってる近くで降ろしてもらい、屋台の並びの端であろう所に辿りつく。隣に立つナギは帽子と眼鏡で表情が分かりづらいけれど、目を輝かせていた。


「うわぁー、すごーい!お祭りってこんななんだぁ!」

「もしかしてナギ、お祭り初めてなの?」

「うん!親は勉強勉強で遊ばせてくれなかったし、一緒に行く友達もいなかったしー」


何でもないことのように言い放つナギに言葉を失う。天才児であるナギが受けた周りからの視線や期待は、私が想像する以上のものなのだろう。
天才故に親から大きな期待をされ雁字搦めにしばられて、天才故に同年代の子とは話が合わず孤立し、時には嫉みや恨みの視線に晒される。

それを、この子は――


「ねぇねぇ、怜香。早く行こうよ!」


そう言って私の手を掴み急かすナギに、私は曖昧に微笑みながら足を前に出した。


「綿飴に焼きそばにタコ焼き…あ、射撃や金魚すくいもあっちにあるよ!うわぁー、どこから行こうかなぁー!」

「…ふふ、そんなに急がなくても屋台は逃げないわよ」

「そうだけどっ!あ、綺羅ってお祭り行ったことあるのかなぁ?」

「どうかしら…綺羅の家は皇家だし、ないかもしれないわね」


じゃあ瑛一はと幼なじみの話になり、何度か一緒に行ったことがあると伝えればずるいとナギはむくれた。
ずるいも何もナギと会う前の話なのだけど…。そう思い伝えるも、損ねたナギの機嫌は直らない。でも今はナギと来てるでしょう、と言えば何度か瞬きをした後笑顔になった。
何だか分からないけれど、機嫌は直ったみたいね。


「今は僕が怜香を独り占め……」

「……ナギ?」


また機嫌を損ねたかと尋ねるも、なんでもないよと笑顔で返されたので深くは追求しないでおく。
手を握り直して先ずはあれに行こうと笑うナギに、私もつられて笑顔になって。

そして、私達は人混みの中へと飛び込んだ。




その後、約束の時間を大幅に過ぎた私達が瑛一に大目玉を食らうのだけど、それはまた別の話。


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お祭りはアニメ11話のあれです。
プリンス達はなんで変装しないでばれなかったのか…w

ナギの過去は捏造ですすみません。もしこうだったら美味しい…私が←

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