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「どういうことですか社長!」


生中継が終わり帰ろうとする社長を引き止め抗議する。
うたプリアワードにHE★VENSがノミネートされて、同じくノミネートされた相手方とライブバトルするまではいい。しかし、同じ作曲家が作った曲とはどういうことだ。
しかも、相手方の作曲家が作った曲なんて。


「HE★VENSの作曲家は私です!何処の馬の骨かも分からない作曲家が作った曲を、彼等が歌うなんて…納得できません!」

「貴様が納得するしないなど関係ないわ。これは決定事項だ。それとも、この儂に刃向かう気つもりか?貴様の代わりなど吐いて捨てるほどいるのだぞ」

「……っ、」


サングラス越しでも分かる社長の冷たい瞳に身が竦む。
震えそうになる身体を、必死に腕を押さえて我慢して。これでは駄目だと意を決して口を開けば、誰かの声が私を遮った。


「嗚呼、引き止めて悪いな親父。こいつは俺が引き取るから。…行くぞ、怜香」

「え…瑛一!?」


突然背後から現れた瑛一に吃驚して、社長に反論も挨拶も出来ないまま引きずられる。辛うじて頭は下げられたけれど。
引きずられてる間、何度瑛一の名前を呼んでも反応してくれない。流石に苛ついて語気を強めれば、漸く瑛一が振り返った。


「親父に直談判なんて…肝が冷えたぞ」

「だって納得いかなかったんだもの。同じ作曲家の曲で勝負だなんて…瑛一は私作った曲以外歌えるの?」

「歌えるさ、それがプロだからな。本当は、怜香だって分かってるだろ?」


瑛一の言葉に口を噤む。彼の言う通りだ。本当は自分でも分かってる。これが、ただの幼稚じみた八つ当たりだってことくらい。
必死に努力して勝ち取ったこの場所を、急に横から掻っ攫われたようで気に入らなかったのだ。生中継で、アイドルと一緒にテレビに映るような子なんかに。
アイドルが並ぶ中ただ一人女が居たら、ファンがどんな反応するか少し考えれば分かることじゃない。ドラマの相手役の女優すら、一部のファンには良く思われないというのに。


「私だってプロだもの、分かってるわよ…!でも、理解はできても納得なんか出来ない…!」


瑛一の顔が見れなくて下を向いた。まるで、自分が蔑ろにされたように感じて悔しいのだ。そして受け止められずに、子供のように駄々を捏ねている今の自分が酷く情けないのだ。分かってはいるのに、どうしようもできなくて。

零れ落ちそうになった涙を必死に堪える。こんな、人前で泣くなんて負けだ。


「あー!瑛一が怜香を泣かしてるー!」

「「泣かせてねぇよ/泣いてなんかないわよ」」

「うわぁー、二人とも息ピッタリー!」


面白ーい!と無邪気に笑うナギに脱力して、出かけていた涙が引っ込む。助かった、と内心安堵していると、背後から名前を呼ばれた。
振り返ればいつもの無表情な綺羅が居て。瑛一といい綺羅といい人の背後取るの好きね…と内心毒づきながらどうしたの?と尋ねる。


「……なかなか楽屋に来ないから…心配した…」

「綺羅……ありがとう」

「あー!綺羅だけずるーい!僕だって心配したんだよー!」

「うん、ナギもありがとう」

「瑛一なんか、悪い予感がするーって一人で楽屋出ていっちゃってさー」


僕等も慌てて追いかけたんだよ、というナギの話に目を見開いて瑛一を見遣れば、瑛一はにやりと不敵な笑みを浮かべた。…何だか腹立たしい。


「伊達に付き合い長くないからな。お前の行動くらい読める」

「……単純で悪かったわね」

「いや?お前のそういうところ、嫌いじゃないぜ」


そう言って気障ったらしく笑う瑛一。ファンなら卒倒するであろうシチュエーションだが、生憎彼とは幼い頃からの付き合いだ。ドキドキすらしない。


「あ。ねぇねぇ怜香、さっきのステージ見た?ライブ対決だってー」

「関係者席から全部見てたわ。全く、負けた方が解散だなんて…」

「あれ?もしかして怜香…心配してる?」

「まさか。HE★VENSが負ける訳ないでしょう?相手が可哀相と思っただけよ」


鼻で笑いそう言い切る私の顔は、さぞかしドヤ顔なんだろう。でもまぁ、彼等も嬉しそうに目を細めていることだしいいか。


「さてと、そろそろいい時間だな。飯にでも行くか」

「さんせーい!僕もうお腹ペコペコー!」

「…………」


そうと決まれば自然と足が楽屋へ向く。楽屋へ向かう足取りの中、私は一人こっそりと立ち止まった。
徐々に開いていく彼等との距離。


“お前の代わりなど、吐いて捨てるほどいるのだぞ”


私も、いつかこうやって――


「怜香」


はっとして顔を上げる。
少し前を歩いていた彼等が、いつの間にか立ち止まって振り返っていて。


「怜香ってば、早く早くー!」

「………早くしないと…置いてく…」


小悪魔なナギに無口な綺羅、そして――


「――行くぞ、怜香」


自信家な瑛一。
私の大切で、大好きなHE★VENS。叶うことなら、これから先もずっと彼等と共に歩んで行きたいと。


「……えぇ、今行くわ」


そんな想いを噛み締めて、私は彼等の背中を追いかけた。



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偽者臭がハンパない…

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