そして、ブラックアウト



耳に届いた柔らかな声に反応して振り向けば、金髪の柔らかな雰囲気を纏っている男の子が身を乗り出していた。
思いの外近い距離に吃驚する。


「僕も可愛いもの大大だーい好きなんです!一緒ですねぇ!」

「ほら藍ちゃん!話分かる人がいたよ…!えっと、四ノ宮くんだっけ?」

「はい、四ノ宮那月っていいます。僕のことはなっちゃんって呼んでください」

「東城冬華です。私のことはなっちゃんの好きなように呼んで大丈夫だよ」

「それじゃあ冬華ちゃんってお呼びしても良いですか?」


初対面でいきなり名前呼びだといいのに、馴れ馴れしさを感じないのは一重に彼の纏う空気のせいだろうか。
物腰の柔らかいとても優しそうな子だなぁと了承の旨を伝えると、なっちゃんはぱあっと明るい笑顔を浮かべた。何この子可愛い。


「僕、ピヨちゃんとか可愛いもの大好きでよく集めてるんですよぉ」

「私もピヨちゃん好きだよ!可愛いよね!」


携帯を取り出して付いてるピヨちゃんストラップを見せると、それ僕も持ってますとなっちゃんも鍵を取り出した。二つ並んだピヨちゃんにお揃いだね、と笑う。


「ああもう我慢出来ません…!冬華ちゃん可愛い…!」

「なっ、なっちゃん!?抱き着く相手間違ってるよ!?」


私は可愛くないよ!とテンション上がってるなっちゃんに言うと、可愛いですだって僕より小さいですからとの言葉が。おお、自分より小さければ可愛いって、なっちゃんの守備範囲はとっても広いんだね…。若干意識を飛ばしかけていたら、急に強い力で後ろに引っ張られて目を見開く。


「藍ちゃん…?」

「キミ、こんなのでも一応先輩なんだから、礼節はきちんと弁えるべきじゃない?」

「こんなのって………まぁいいや。私は別に気にしてないから大丈夫だよ?」

「冬華が気にする気にしないじゃなくて、マスターコースを行う上でなあなあになったら困るから僕は言ってるんだよ」

「でも藍ちゃ…」

「まあまあ、アイアイも冬華ちゃんも落ち着いてー!喧嘩はれいちゃんが両成敗しちゃうぞ!」


私達の肩に腕を回したれいちゃんの窘める声に、私も藍ちゃんも見合わせて口を噤む。確かにこれ以上は場の空気を悪くしかねない。流石れいちゃんだなぁ…とれいちゃんにお礼を言うと、れいちゃんは優しく笑った。流石25歳だね、と言えば年齢のことは言っちゃダメ!と手でバツを作りツッコミが入る。その変わり身の早さに思わず噴き出してしまった。


「冬華ちゃん…」


振り返れば藍ちゃんに注意されてしょんぼりしているなっちゃんの姿が。大型犬がご主人に怒られてしょんぼりしてるみたいで、不謹慎にも可愛く思った。
ごめんなさいと謝るなっちゃんに、私は少し背伸びして頭を撫でる。


「今度ゆっくりお茶飲みながらピヨちゃん対談しようね、なっちゃん」

「……はい!僕お菓子作るの得意なんで、その時は作って持って行きますね!」

「ちょ、那月!お前先輩を殺す気か…!」

「えっ、どうしてですか?」


心底分からないといったなっちゃんの表情に、鋭く突っ込んだ少年はたじろいだ。おお?この流れから察するになっちゃんは料理下手なのかな…?少年はそれを本人に直接は言えないようで、それはだな、等ずっと濁している。優しいんだなぁ、と二人のやり取りを生暖かい目で見守る。
しかしまぁこの少年は…うん。可愛いです。


「って、なんで俺の頭ぽんぽんしてるんですかっ」

「えっと…そこに頭があったから?」

「それは案に俺が小さいって言いたいのかよ!!……あ、」


大声で突っ込んだのは反射的だったのだろう、先輩にタメ口をきいてしまったと慌てて謝る少年。
気にしなくていいよ、わざとだもんと笑えばまた少年の突っ込みが響き渡った。

これは中々からかいがいのある子だなぁと笑っていると、また後ろから声を掛けられる。あれ、この声は聞き覚えが…


「相変わらずですね、貴女は」

「一ノ瀬くん…!久しぶりだね!」

「おや、イッチー知り合いかい?」

「えぇ、以前HAYATOの時に一緒に仕事をさせて頂きました」

「HAYATOやめちゃったんだねー。可愛いかったのに勿体ない」

「…………」

「じょ、冗談だよ…?(半分は本気だけど)」

「……はぁ、貴女のことですから半分くらいは本気でしょう」


貴方はエスパーか、と問えば貴女が分かり易すぎるんですと一蹴された。そんなに顔に出てるのかと両掌で頬を押せば、そういうところがですよと言わる始末。解せぬ。
それにしても、私の周りにはこういう子ばっかりだなぁ…と後ろに居る藍ちゃんに視線を送る。


「言われたくなかったら、言われないようにすることだね」

「藍ちゃんもエスパーか。別に言われたくない訳じゃないよ?藍ちゃんの言うこと的確だから助かるし」

「…全く、頼りない年上の先輩を持つと苦労するよ」

「私は頼れる年下の後輩を持って助かってるよ」


私の言葉に藍ちゃんは少しだけ頬を染めた。かなり貴重な藍ちゃんのデレに内心興奮していると、突如ぐらりと視界が傾いた。


「あはは……ごめんなさい」

「……今回はどれだけ寝てないの」

「えっと……二日くらい?」


そう言うと、ふらついた私の身体を支えた藍ちゃんは盛大な溜め息を吐いた。うぅ、本当ごめんなさい。寝てなかったことを忘れて、はしゃぎ過ぎてしまったことを反省する。
しかし一度自覚をすると、もう急激な眠気と疲れに襲われて勝てる気がしない。しょうがないから寝たら?と言う藍ちゃんの呆れを孕む声に、私は甘えて意識を手放した。


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