洗濯物はきちんと畳もう



「段取りは以上だ。何か質問のあるやつはいるか?」


一通りの段取りを説明し終えた龍也さんが皆に尋ねる。
もう少ししたらマスターコースを受ける新人さん達が此処に到着するみたいで、新人さんを迎えるにあたってパフォーマンスをするとのこと。最も、私はただのしがない作曲家なので、パフォーマンスには参加せず隅で見学するだけだけど。


「抑、こんなパフォーマンスする必要あるの?」

「それは社長命令だから諦めろ美風。まぁ、あいつらに先輩の実力を見せつけるには丁度良いんじゃねぇか」

「…なるほどね。リューヤの言うことも一理あるか」


納得して口を閉ざす藍ちゃんを一瞥して、龍也さんは再び他に質問はないかと尋ねる。しかし他の2人は特に質問もないようで、後は新人さん達の到着を待つだけとなった。
携帯に着信があり席を外そうとする龍也さんの後ろ姿を見送りながら、隣にいる林檎ちゃんを見遣る。…うん、聞くなら今しかない。


「ねぇ、林檎ちゃん」

「なぁーに?冬華ちゃん」

「その…えっと…社長から、私の荷物林檎ちゃんが纏めてくれたって聞いたんだけど…」

「嗚呼、そのことね。朝急にシャイニーから頼まれたのよー。纏めたって言っても、箪笥とかは中身そのままでシャイニーが分身して運んじゃったから小物とかだけね」

「なんだ、社長が分身して運ん……うん?」


聞き直そうとして思い止まる。社長なら有り得そうだ。だって彼のシャイニング早乙女だもの。
昔、黒魔術みたいな呪文が社長室から聞こえたこともあったし、例え魔法が使えると言われても私は納得出来る気がする。

それにしても社長と先輩に引っ越し作業させるとか、私はどんなVIPだ。罪悪感しか沸かない。元を辿れば私は被害者だった気がするけれど、罪悪感しか沸かない。私は確かに被害者だったはずなのに…。

林檎ちゃんの様子を見ると、どうやら危惧していたことは起きていないようでそっと胸を撫で下ろす。良かった、お嫁に行けなくなるかと思った。
一人安堵していると、隣にいた林檎ちゃんの顔がゆっくり近付いてくる。その顔はいつもの花が咲く様な可憐な笑顔とは違って何処か妖艶で――


「冬華ちゃん、可愛い下着付けてるんだね」


耳元で囁かれたいつもと違う低い声に目を見開く。耳元を押さえながら、なんで、見てないんじゃ、と呟けば林檎ちゃんはいつもの笑みで、洗濯物は干しっぱなしにしないようにしなきゃねと笑った。


「林檎ちゃんに下着見られたとか、私もうお嫁に行けない…!」

「抑、最初から貰い手いないでしょ」

「藍ちゃん、それはいくらなんでも酷いよ…?」


藍ちゃんの辛辣な言葉に間髪入れずに突っ込む。しかし藍ちゃんは全く反省の色もなく、寧ろ本当のことを言って何が悪いの?って顔をしてる。
可愛いから何を言っても許されると思って…!許すけれども!


「林檎先輩、冬華ちゃんの下着見たの!?ずるいー!冬華ちゃんぼくにも見してー!」

「れいちゃん、セクハラダメ、絶対」

「テメェの下着なんざ興味ねぇよ」

「必要性が全く感じられない情報なんだけど…時間の無駄だね」

「……うん、それはそれで傷付くね」


林檎ちゃんは林檎ちゃんで、今度一緒に下着見に行きましょうって笑ってるし。いくら私より可愛くて女子力高くてガールズトークなテンションでも、林檎ちゃんは男だからね…?
あれ、ふと思ったけど林檎ちゃんって下着男物と女物どっちを付けてるんだろう。女装だからちゃんと女物付けてるのかな…?気になって尋ねてみると、林檎ちゃんはまたさっきと同じ表情を浮かべて、私の耳に唇を寄せた。


「ひ・み・つ」

「……林檎ちゃん、私が耳弱いの知っててわざとやってるでしょう」

「あら、ばれちゃった?」

「……確信犯め」


顔真っ赤ね、と可愛らしく笑う林檎ちゃんに怒る気も失せて息を吐く。
全く、可愛いければなんでも許されると思って…許すけれども。


いつの間にか電話を終えた龍也さんが戻ってきていて、指示が飛び交う。
もうすぐ新人さん達とご対面か、と私は指示通りに部屋の隅に寄った。



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