これが通常運転です



「酷い顔だね」

「会って第一声がそれって…酷い藍ちゃん」

「酷いのは冬華の顔でしょ」


相変わらず可愛いお顔で毒舌をおっしゃる…とがっくりうなだれる。
寧ろ今こうして生きてる事が奇跡なんだからね、と力無く答えればふーんとこれまた興味なさ気な返事が返ってきた。反応薄すぎるでしょう藍ちゃん。れいちゃんはオーバーリアクションで心配してくれてるというのに…某薬のように半分は優しさになれとは言わないから、もう少しだけ優しさを下さいお願いします。

藍ちゃんとは打って変わってれいちゃんは何があったの?って聞いてくれたけれど、私は思いだそうとして身を震わせた。此処に辿り着くまでの過程なんて恐ろしくて思い出したくもない。
顔を青くさせた私に、れいちゃんは何かを悟ったのか大変だったねと頭を撫でてくれた。流石QUARTET NIGHT唯一の良心、優しさが身に染みる。


「それより!れいちゃん、冬華ちゃんもマスターコース担当なんて知らなかったよー!なんで言ってくれなかったのさっ!水臭いぞぅ!」

「いや、私もさっき初めて社長から聴いたんだよ…」

「えぇ、さっき!?はは、シャイニーさん相変わらずだねぇ…」

「全然笑えないけどね。それに私も、れいちゃん達がマスターコース担当するなんて知らなかったよ」


お互い忙しくて最近会えなかったからねぇと苦笑する。
此処にいるマスターコースを担当する先輩は全員、私が作曲を担当するユニット「QUARTET NIGHT」のメンバーだ。可愛い顔して毒舌な藍ちゃん、見た目と比例してロッカーな蘭ちゃん、ムードメーカーで常識人なれいちゃん。QUARTE TNIGHTにはもう一人甘党な伯爵様がいるのだけど、この場にいないところを見ると彼はどうやらマスターコース担当ではないらしい。

皆をぐるりと見回して、ふと思い付いた疑問を口にする。


「マスターコースって後輩達と共同生活するんだよね…大丈夫なの?特に藍ちゃんと蘭ちゃん」


れいちゃんはともかく、協調性の欠片もない二人が後輩達と共同生活なんて出来るのだろうかと心底心配になる。
そんな生温い私の視線に気付いたのか、蘭ちゃんはとても不機嫌そうな顔で私を睨みつけた。


「テメェ…喧嘩売ってんのか?」

「あらー、蘭ちゃんは私の喧嘩をいくらで買ってくれるのかなー?」

「んなもん決まってんだろーが。タダだタダ!」

「残念だけど私の喧嘩は高いよー?」


ちゃんと反応返してくれる蘭ちゃんは本当からかい甲斐があるなぁ、と内心笑っていると「僕は冬華の方が心配だけど」と静かな藍ちゃんの声が耳に届いた。


「え、私少なくとも藍ちゃんや蘭ちゃんと違って常識あるつもりだけど」

「計画性皆無で〆切り前は大抵徹夜。いいアイディアが思い付いたら“ミューズが降臨した”って訳の分からないこと言って所構わず曲作りに没頭するし、その間食事や睡眠も忘れて言わなきゃ摂らない…一緒に生活する後輩が苦労するのがありありと目に浮かぶよ」

「うっ、耳が痛い…」


協調性や常識云々が大変お気に召さなかったようで、何時も以上に藍ちゃんの口から毒舌が放たれる。
…嘘ついた。寧ろ通常運転だったわこれ。
藍ちゃんに謝りながら、私はそっと藍ちゃんに近寄り耳打ちをする。


「後輩と一緒に生活するなんて“あれ”は大丈夫なの?」

「冬華は僕がへまするように見える?問題ないよ」

「でも…」

「お待たせー!段取りの説明するわよん」


集まって頂戴ー!と林檎ちゃんの声が響いたため、慌てて口を閉ざす。これで話はおしまいと言うように林檎ちゃんの元へ向かう藍ちゃんの後を、数歩遅れて私も追い掛けた。



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