05



昼休みが終わる直前、教室に帰ってきた渚くんは何処か思い詰めたような顔をしていて。どうしたのか尋ねてもなんでもないよと流され、私はただ渚くんの背中を見送ることしか出来なかった。
そのことが酷く、哀しい。


以前私は渚くんの一言に救われたというのに、私は渚くんに何もしてあげられないなんて――




ガタッ、と席を立つ音に顔を上げる。
今は国語の授業中で、短歌を作り先生に提出しなければいけないのに、どうしてもそんな気分にはなれなかった。それに抑、お題の触手なりけりは季語ではない絶対に。


「(渚くん…?)」


対先生用のナイフを隠し持ち先生に近付く渚くんの姿が視界に入る。その光景に何処か引っ掛かった。
渚くんは積極的に暗殺を行うタイプではない。思慮深い彼は、どちらかと言えば他人のサポートに回ることが多いし、向いている。
何かが、可笑しい。

気付けば、渚くんが振り下ろしたナイフは軽々と先生に受け止められていて。そこで終わると思われた彼の暗殺は、ナイフだけでは終わらず先生に抱き着いて――教室に、爆発音が響いた。


「渚、くん…?」


倒れる渚くんの姿が、やけにスローモーションに映る。周りの声は遠くに聞こえて、私の耳には届かない。目の前の光景を消化出来ずにただただ目を剥く私は、他人から見ればさぞ滑稽だっただろう。

あの時、私も一緒に付いて行けば良かった。渚くんを寺坂くんの所に行かせなければ良かった。後悔したって過去が変えられる訳じゃないのに、そんな考えばかりがぐるぐると私の脳内を廻っている。



私が、渚くんのことをちゃんと見ていれば。




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