片岡さん達に怒られながら、花壇に球根を植えているせんせいを見遣る。
事の発端は数分前。生徒たちから暗殺を仕掛けられたせんせいは、それを躱した。躱しただけなら何も問題なかったのに、みんなの持つ武器をカッコつけて花壇から苅ったチューリップとすり替えてしまったのだ。その花が、みんなで大切に育てた物とも知らずに。
抜けているというか、なんというか。
「渚くん、何書いてるの?」
「先生の弱点を書き溜めておこうと思ってさ」
そのうち暗殺のヒントになるかも、と渚くんが書き込んでいるメモを覗き込む。そこには“カッコつけるとボロが出る”と書かれてあった。
――これは、暗殺の役に立つんだろうか。でもせんせいを真面目に観察して書き留めるのは渚くんらしい。以前せんせいの顔色の変化に気付いた渚くんのことだ、きっとその積み重ねはいつか花咲く気がする。
「役に立つといいね」
「……うん」
はにかむ渚くん、本当可愛いです。
◆
目の前のせんせいは、先程花壇で球根を植えていた時とは一転、ロープでぐるぐる巻きにされ木にぶら下がっている。そしてそのせんせいを、即興で作った槍や対せんせい用の銃で狙うクラスメイト達。
花壇を荒らしたお詫びだと開催されたハンディキャップ暗殺大会。…果たして、これを暗殺と呼んでいいのか分からないけれど。
そして、ヌルヌルと振り子の様に身体を揺らしかわすせんせいの顔は横縞で。
「…完全にナメられてる」
「…だね」
「でも待てよ、殺せんせーの弱点からすると……」
そう言って渚くんは先程書き込んだメモを取り出した。その僅か数秒後、せんせいの全体重を支えていた枝がバキリと音を立てた。
地面へ落ち横たわるせんせい。固まるクラスメイト。
「“カッコつけるとボロが出る”……早速役に立ったね」
「……うん、どんどん書いていこう」
今だ殺れと盛り上がっているクラスメイト達を眺めながら、増えていくせんせいの弱点に苦笑を漏らした。