昔読んだ本に、「七夕物語」というものがある。
誰でも知っている織り姫と彦星の恋の物語。
何気なく読んでいたそれに、その頃の俺はただ、空にも川があるなんてすごいな、とかそういう考えしか持っていなかった。
きっと女の子だったら、ロマンチックで憧れる恋なんだろう。
俺には全くわからないけれど。


大きくなっていくにつれて、空に川なんかできるはずないって分かった。
織り姫と彦星も、ロマンチックに仕立てあげるための架空の人物。
天の川は川なんかじゃなくて、地球から見た他の惑星が帯状になってるってことも。






「へぇ、そうなんだ。」


そこまで聞いてハルカは頬杖をつきながら俺に微笑んできた。
乙女でそういうことが好きなハルカなら、きっとこの手の話につっかかってくると思ったのだが…俺の予想は外れたようだ。


「珍しく大人しいな。」
「もー!ユウキくんったら失礼だなあ!」


あはは、と声を上げながら頬をピンクに染め上げる。照れてるんだ。
両手の指をくりくりと遊びながら、ハルカはゆっくり瞳を閉じた。


「私ね、七夕に雨が絶対降るのが不思議だったの。」


だってなかなか晴れてくれないじゃない?
まあ確かにそうだ。気候的に豊かなホウエンでも、ここ数年は七夕は曇り空、もしくは雨。


「でもね、考えたんだ。」


曇り空になるのは二人が会うのを邪魔されたくないからって。
雨になるのは彦星が川を渡るときの水しぶきが地上に降りてきてるんだって。


「ユウキくんはすごいね!なんだか聞いてて納得しちゃったよ。」


顔を上げた彼女の瞳には、うっすら涙の膜があった。
ひどいことを言ってしまった。俺は、彼女を無意識に傷つけてしまったんだ。


「ごめ、」
「はい!謝るの禁止!
ハルカちゃんはすごーくご機嫌ななめです!
ユウキくんはどうすればいいでしょう?」


本当は怒ってもないし、機嫌が悪くないのも知ってるけど。
やっぱりハルカには甘い俺がいた。




正面からぎゅっと抱きしめて額を合わせれば
目の前の彼女の瞳にはきらきら小宇宙が広がっていた。






「隣人」さまへの提出作品です。
参加させていただきありがとうございました!
ユウキくんは何でも口に出しちゃうけどハルカには優しそうだなあと思います。
8月なのに七夕のお話ですみません…一度ハルカに言わせてみたかったので、この企画に参加できたことに本当に感謝しております。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
s.s. 38

2010/08/05/Thu




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