ストロベリー☆ナイト

◆抜け駆け編◆

「レン、少し話があります」
またまたST★RISHの楽屋内での出来事である。
椅子に座らされた自分を取り囲む様にして立つ他のメンバーに、レンは溜息を吐き出した。
「その様子だと、もうバレてしまったみたいだね」
目の前の机に置かれた一枚のCDを見てレンは苦笑いを唇に乗せてそれを手に取った。それは今度発売されるレンのソロCDのサンプルである。こんな光景はもう何度も目にした気がするけれど、問題はこのジャケットにあるのだ。
「やっぱりかー!!!お前な、一人だけ抜け駆けは禁止だってあれ程言っただろ!」
翔は那月の後ろで隠れてしまった自分を主張する様にピョンピョン飛び跳ねてレンへと怒りを露わにする。
「神宮寺…貴様、規約を破った時はどうなるのか覚えているんだろうな」
真斗は普段よりも若干低い声で唸る様にそう言って鋭い眼光で睨みつける。
「……分かっているさ」
紳士協定ではないけれど、七海春歌に関しては徹底した同盟が組まれているST★RISH内での神宮寺レンの抜け駆けが発覚したのだ、その内容とは。
「でも流石トキヤ君ですね、これだけで春ちゃんて気づくなんて」
ジャケットを手に取って那月は微笑む。そこには、レンがシャツを乱して後ろ向きの女性を抱きしめている一枚が。アイドルにしてはその過激なジャケットであるけれどもまさかのその女性役がアイドル七海春歌だと気づく人はいないだろう。
ウィッグで髪の長さや色が変えられているので一見見ただけでは彼女だと気づく人間はほぼいないに等しいその中で、トキヤは易々とそれを見破ってしまった。白くて細い背中、腰に回されたレンの手で細見の女性なのが強調されている。
「気づかない方がおかしいでしょう」
「イッチーには恐れいったよ、実はモデルの子が体調不良で急遽代理をって事でね…たまたま隣のスタジオに来ていたレディに代役を頼んだってわけだけど」
役得だったとは言わない。殺される。
「それにしては随分とイキイキした表情ですがね」
ジロと睨まれて流石のレンでさえも少々苦いものを噛んだ様な表情になる。
「いいな〜レンだけずるいよ…あ〜あ春歌がST★RISHのPVに出てくれればな…」
今まで何も発する事なく黙っていた音也であったが、しみじみとそんな事を呟いたものだから、一同の視線が音也へと向けられる。それは何ていう名案なんだろうか。
「それいいな!最近そういうの流行ってるし、事務所がOK出せばいけんじゃねぇ!?」
「まぁそこまで不可能な話では無いかもしれないですね」
「今回の楽曲はバラードだからな、切ない恋心を表現するPVに女性は必要不可欠だろう」
「わぁ〜春ちゃんがPVに出てくれたらとっても可愛いのになりそうです」
「早速春歌にも聞いてみようぜ!」
皆それぞれそれらしい事を言ってはいるけれど。音也の一言で少しだけ危ない雲行きが回避された気がする。
「…レン、分かっているとは思いますが、あなたは春歌との絡みは一切無しです」
翔が携帯で春歌へとメールを打つ間、クルリと振り返ったトキヤが笑顔でレンへと悪魔の囁きを…。
「お〜い、イッチーそれは無いだろう」
少々情けない声でそう言ったものの、椅子に座りこんだトキヤは本へと目を向けてこちらを見ようともしない。想像以上にご立腹な様子にレンはこれは本気だろうと小さく溜息を吐き出した。
けれどあの時の春歌の様子を思い出せばそんな事は耐えられてしまう位には、自分は良い思いをしてしまったわけで。
「おーい、春歌後でこっちに顔出すってー!」
楽屋内に今日も元気な翔の声が響き渡る。それに少しだけ和んだ空気だけれど、暫くは触らぬ神に祟りなし!な二人には近づかない方がいいだろう。
レンは何時の間にか感じた肩身の狭さに自分でも笑ってしまいそうになる。
「全く、不毛すぎる」
誰の言葉だろうか、今日もST★RISHの楽屋は平和だ。





up 2014/03/03

以前同人誌に収録したものになります!
サイト2周年という事で少しの間更新強化したいと思います。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -