一万打記念小説

※Sクラプリンスと春歌(瓶底眼鏡ちゃん)が幼馴染だったらパラレルです。








放課後ロマンティカ-5-








事態は非常に最悪な状況である―。


「……レンさん……」
先程まで遠くにいた筈の彼がどうしてここにいるのか、
それ等は問題では無かった。普段は温厚な彼だ。何を考えているのかを
余り悟らせないポーカーフェイスが今怒りを露わにして
目の前に立っている。春歌はレンの顔を見つめたまま言葉を発する事も出来ずに
真斗の傍に立ち尽くす。どうして彼は怒っているのだろうか、
それすら春歌には分からない事であって。

「ねぇ、まさかあんたの幼馴染って…」
横で呟かれた友千香の声にも返す事が出来ずに春歌はその場で立ち尽くすだけだ。
「…おいおい、レン!落ち着けってば春歌が困ってるだろ」
翔は事態が恐ろしく面倒な方向に進んでいる事を悟り、春歌の横まで移動すると
レンの腕を叩く。この男実は短気なのではないかと最近思っている。事、春歌の事に関すると。

「あのっ…違うんです、レンさん…聖川さんは私が転びそうな所を助けて下さっただけで」
自分のせいで何だかややこしい事態になっている事だけは分かった春歌は
真斗の前に立つと、まるで庇う様にけれどハッキリとレンへと事の真相を告げる。
それが分かっていないレンでは無いけれど。
食堂に入ってきた時から春歌の存在には気づいていたけれど、Sクラスの取り巻きを引き連れて
春歌に声を掛けるわけにもいかずに、少しばかり苛立っていた自分がいて。
なるべくそちらに気を取られない様に(春歌が女子から謂われもない扱いをされるのはそれこそ耐え難く)
会話に集中していたけれど、気づけばやはり視線は春歌を追いかけていて。
そんな時、目の前で同室であればこそライバル関係でもある、あの男が春歌を抱きとめるのを見せられて
一瞬何か―ブツリと。目の奥の方で何かが引きちぎれた様な音がして、気づけば
まだ話をしていた女子を放ってレンはその場へと足早に足を進めていた。

「理由はどうあれ、俺の幼馴染に気安く触らないでもらいたいね」
春歌の細腕では引かれればレンの腕の中へと容易く収まってしまう。
それによく考えなくてもこの状態は非常にまずい事だというのは春歌にも理解出来る。
これからアイドルとしてデビューしなければいけないのに、女性問題のトラブルなんてもっての外である。
「女性問題のトラブル」そんな文字がデカデカと春歌の上に振ってきて、腕の中でジタバタと手を動かすものの、
眼鏡がずれるばかりでしっかりと片腕で抱かれた春歌はもはやなす術も無い。

「そんな事を貴様に指図される覚えはない、神宮寺」

真斗は表情を変えるでもなくそう言うとふいと顔を逸らしてしまう。
火に油を注ぐというのはこういう事を言うのではないのか、その場にいる二人以外は
そう思ったに違いない。


「…那月、お前のせいで事態がややこしくなってきた」
自分の後ろでこの事態を理解しているのかしていないのか、ニコニコと笑顔を浮かべたまま
事を見守る那月に向かって翔は恨みがましい言葉を投げる。
「…ねぇねぇ翔ちゃんの幼馴染って彼女だったんですねぇ」
やっぱり全然分かっちゃいない。ガクリと頭を下げると翔はトキヤを呼びにいくべきかと
考えを巡らせる。
この二人の仲の悪さはある意味有名ではあるけれど、同室な事もあるし徐々に良くなって
いくだろうと考えていた。けれど初日の最後に関係を悪化させるかの様な事件が今、目の前で
起きている。

「あああああ、あのっ…レンさん、違うんです、だからっ…!!」
「何を騒いでいるんです」

その時だった。何時の間に姿を現したのか、トキヤの姿に春歌は目を瞠る。

「何なに、どうしたの!?ってあれ…皆揃って何してるの?」
その後ろからはやっぱりというか、同室の一十木音也の姿もあり、益々場が騒がしくなっていく。
空気を読まないそれに、けれど未だ冷戦状態のレンと真斗は睨みあったままだ。

「トキヤ君……」
「…春歌…まさかこの人も幼馴染?」
レンから少しだけ距離をとって友千香の横へと並んだ春歌に小声で問いかけられて
春歌はコクリと首を縦に振る。目立ちたくないと思った矢先に、
Sクラスのアイドル候補生が並んだあげくにAクラスでも目立つ存在の三人組が揃っているのだ
逆に目立たない方がおかしい。

「音也…少し黙っていて貰えますか」
「え、ごめん…って嗚呼!七海も来てたんだ」
「あ、えっとそうなんです、が…」
「そういえばまだお話はした事がありませんでしたよね、僕は四ノ宮那月です。那月君て呼んでくれると嬉しいですねぇ。僕は春ちゃんって呼んでもいいですか?」
「おいてめぇ那月!何和んでやがんだ!こうなった原因はお前にもなぁ」

今までの緊張感はどこへやら、自由に会話を始めた那月と音也に、真斗はそちらを見ると
小さく溜息を吐き出す。レンも少し冷静になった様で気づけば先程の威圧感は也を潜めている。

「レンさん私は大丈夫ですから…あの、戻ってください」
それに少しだけ安心した様に春歌はレンの傍に寄ると申し訳なさそうにそう告げる。
何が彼を怒らせてしまったのかは分からないけれど、誤解は解けた様だし一緒に来た筈の女子は
黙ったまま先程座っていた席の傍に立ち尽くしている。

「レディ、絶対に聖川の傍にはいかないで」
下ろしていた手をきゅっと握られて春歌は目を白黒させてしまう。皆の前だというのに何時ものレンらしくない
その態度に春歌は驚きを隠せない。
「レン…春歌は大丈夫ですから行ってください…後がややこしい」
「イッチー随分冷たい事を言うじゃないか、おチビちゃんレディの事は任せたよ」
「チビって言うな!!チビって!!」

叫ぶ翔の言葉を最後まで聴かずに、レンは春歌へとウィンクを投げると
手をヒラヒラと振って背中を向ける。
これで漸く刺さる様な視線から解放されると春歌は軽く息を吐きだした。
茫然と立ち尽くしたままのAクラスの面々を余所に。







up2012/09/17



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