※ギャグ1000%/嶺春要素有 リクエスト「蚊」 






-悪い虫-


「あ、藍君!おはようございます」

打ち合わせのために先に訪れた楽屋の扉が開かれたのは
春歌が椅子に腰かけてすぐの事だった。
「おはよう……っ…」

入ってきた瞬間に一瞬自分を見つめる瞳が見開かれた様な気がするのは
気のせいだろうか。時間的に早朝とも言えるこの時間だ。
それなのに一番年下であろう藍が一番に楽屋に訪れる事に
毎度の事ながら春歌は関心させられる。コーヒーを入れようと
席を立ちあがった瞬間に、またもや突然扉が開かれて入ってきたのは蘭丸だった。

「…チッ、嶺二の野郎まだ来てねぇじゃねーか」
「あ、おはようございます蘭丸君」
「……あぁ……!!?」

何時も通りにぶっきらぼうな挨拶をする蘭丸が一度こちらを見て
そしてもう一度凄い形相で二度見するものだから春歌は頭に疑問符を乗せたまま
コーヒーカップへと手を伸ばす。顔に何かついているのだろうか。
そんな呑気な事を考えながらカップを二人の目の前に置くと春歌は残りのメンバーを待つべく
もう一度椅子へと座り直した。目の前には今度の新曲の譜面が少々…否、かなりバラついている。

「…おい」
「…言わないでも分かってるよ」

譜面に目を落としていると、二人が何やら小声で話を始めたので
撮影の事だろうかと春歌はもう一度譜面へと目を走らせる。
四人で歌う楽曲を手掛けるのは何もこれが初めてではないけれど、
毎回新しい発見がある事は素晴らしいし次の曲に生かしていければと思うのだ。

「…遅くなった」
「てめぇマジでおせーよ!」
「……5分の遅刻だよ」

そんな事をぼんやりと考えてるうちに次に姿を現したのは、カミュだ。

「おはようございます、カミュさん」
「あぁ……どうやら寿もまだの様だな……!!?」

「……?」

目が合った瞬間に、先程と同じ様な反応が返ってきたものだからこれはいよいよ
もしかして自分はおかしいのだろうかと、春歌が立ち上がった瞬間だった。


「めんごめんごー!!また嶺ちゃんてば寝坊してしまいました〜☆マジごめん許して」

朝からとんでも無いテンションで入室して来るのが一番の年上なのだから
士気は下がる一方である。春歌以外はうんざりした表情で出迎える。
そして座っていた面々が突然立ち上がったものだから、もしかして怒っているのだろうかと春歌が慌てた時だった。

「準備はいい?」
「あぁ、何時でも」
「最近腕が鈍ってたからな」

そして突然藍の掛け声が聞こえたかと思えば、一同その手に握るのは蝿叩きである。

バシン、と勢いよく振り上げられたそれは次の瞬間嶺二の頭へとヒットする。

「ちょ、痛いよアイアイ!僕は虫じゃないってば!!」
「…最近虫が多くて困ってるんだよね、悪い虫が!」
「今の内に殺っておかねーと、蚊に刺されると後が大変だからな」
「俺の視界をうろつく虫は全て叩き落としてくれるわ」
「うわぁ〜!助けて春歌っ〜!!」

涼しい顔でまるでバトミントンの素振りの様にラケットを振る蘭丸の姿は
予想以上に板についているし、カミュに至っては何か別の危ないものに見える。

「あのっ…!皆さん…っ!!?!」

突然始まった(毎回だけれど)目の前の光景に唖然としつつ、声をかけるものの、
まるで虫を追う様に蝿叩きで嶺二を叩く事に夢中の三人には春歌の声は全く届いて
いない様だ。
そしてふと、楽屋に備えつけられた姿見に己の姿が映り、春歌はギョッと目を剥いた。
「な、なんっ……!!!」

鏡に映る自分の顔は何時も通りである、問題はそれを支える首…首筋に
何時もは存在しないものがそこにはあって。春歌はまるで噴火寸前の火山の様に顔を真っ赤にさせて
後ろを振り返った。まさか、虫というのは、そのまさかであるわけで。

「……嶺二君の馬鹿っ……!!!!」

春歌の悲鳴にも似た叫び声が楽屋に響く。
またこうして新しい一日がスタートしたのであった。




up 2012/09/04









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