※何だか少しホラーです。



KAIDAN



真夏の蒸し暑い夜でした。



「それからです…夜になると井戸からは、一枚、二枚、三枚」

ゴクリ。唾を呑みこむ音が傍で聞こえて、ビクリと春歌はそれにすら体を震わせた。
暗闇の中、身を寄せ合うようにして寮の部屋の一室に集まるのはお馴染みのメンバーである。
誰が言い出したのか真夏の夜に所謂、「怪談」話をしようと集まったのは
今や駆け出しとはいえ、人気のアイドルとその作曲家である。
紅一点である春歌を中心に回りにはがたいのいい男子が集まっている光景は傍から見れば
何とも言えないものではあるけれど。
先程から狭いとは思っていたけれど、更に感覚が狭くなった気がする。
誰かが押しているのだろう。ふいに横を見ればレンの顔がすぐ傍まで迫ってきていて
春歌はゴクリと息を呑んだ。近い、近すぎる。何だか息苦しさを感じて春歌はもう片方を見れば
これまた自分とそう身長は変わらない、と言ったら本人はとても怒るだろう翔が
何時の間にか自分の腕を掴んでいて、身動きが取れないこの状況に春歌は視線を前へと戻した。

今はトキヤの順番で、ライトに顔を照らされたそれは鬼気迫るものがある。

「四枚、主人は障子に映る影に身を凍らせたまま、けれど尚一層その声は自分へと迫ってきて…」

ゴクリ、また誰かが息を呑んだ。確かに怖い、怖いのだけれど。
両隣からぎゅうとまた押されて春歌は縺れる様にレンの膝へと手を付いた。
後ろに居た筈の那月が春歌の背を掴んで縋りついてきたので、前に押されたのもある。

「一枚、足りない!!!」

カッと目を見開いて叫んだトキヤに「うわぁあああああああああ!!!!」悲鳴を上げたのは
音也だった。真斗は目を開けたまま、フルフルと震えている。
翔は目を閉じて春歌の腕にすがりつく、もう一方の腕をレンに引っ張られた春歌は今度は
後ろの那月へと倒れこんだ。とんでも無い惨状である。

「トキヤってば、何時にもまして、顔、怖いよ……」

顔を真っ青にした音也は真斗の肩を揺すりながらトキヤの事をチラリと見やる。

「失礼な人ですね、何時にもましてとはどういう事ですか音也」
「イッチー…本気で来たね」
「マジでこわすぎるって…」
「本当に怖かったですねぇ〜」

皆の反応に満足したのかトキヤは懐中電灯をカチリと消すと、辺りは一瞬真っ暗になる。
シンと鎮まる部屋に、次は自分の番だと思いトキヤから懐中電灯を受け取ろうとした瞬間だった。

ぎゅうううと、体を突然誰かに抱きしめられて、

「……ひゃあっ!!!!」

素っ頓狂な声を上げてしまう。

「どうかしましたかっ!?」

カチ、とすぐにトキヤが懐中電灯を照らすけれど、今照らされる瞬間まであった腕は何処にもない。
むしろメンバーは少し離れた場所に移動していたのか、皆が目を瞠って驚いている。
今のは一体何だったのだろうか。
まだ、ぬくもりが残っている。暖かな手の感触と、後ろに感じた息遣い。
けれど、何か底知れぬ気配を感じた様な気がして、春歌は頭が真っ白になった。

「……春歌?」
茫然としたままの春歌の顔を覗き込むトキヤの顔に我に返る。
「あ、いえ!何でもないですっ…!!」


果たして抱きしめていた手は誰の手なのか。




up 2012/08/13











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