※モノクロームの続編になります。
春歌のパートナーはレン/でもトキヤ×春歌です。








少しずつ凍っていた心が溶けてまた新しい形になっていく感覚。
罅が入り壊れてしまうのでは無いのかと思ってた。
あの日抱きしめられた腕は真夏の暑さに負けない位だった。
誰かに抱きしめられる事がこんなに心地良い事だと
生まれて初めて知った。


【セピア】




あれから夏も終わりジワジワと肌を焼く様な暑さは何時の間にか也を潜め
少しだけ肌寒さを感じた頃には次第に笑える様になっていた。
廊下を、窓の外を見ながら歩いていれば向こうから相変わらず沢山の
取り巻きを連れた彼の姿がそこには合って―
けれどどうしてだろうか前ほどはあの胸が引き攣れそうな痛みが少なくなった気がする。
まるで何も目に映らぬかの様に真っ直ぐに横を通り過ぎれば
今まで泣きそうだった自分が何故か馬鹿らしく思えて、苦笑を浮かべた。
何時か振り向いてくれるかもしれない、そんな風に思っていた―それは叶う事は無かったけれど。

私は何に傷ついていたのだろうか、目を伏せてまるで大切な人との別れの様に隠れて泣いた。
切ない日々はもういらない―


「春歌」

教室へと戻れば最後の授業を終えた生徒はさっさとレコーディングルームに籠るために
その姿は微かにしか見られず、その普段の彼からは予想も出来ない様な声に
目を瞠る数人程しか教室には残っていなかった。
自分のパートナーが誰なのかを知る人間にこの光景はどう映るのだろう?
そんな事を考えながらも教室へと足を踏みだすとトキヤの元へと歩みを進める。

「今日もレコーディングルームでしょう?私も行きますよ」
そうするのが当たり前の様に必要な物を揃えて席を立つ。彼のその背中を見つめて
歩くのがここ最近の日課になりつつある。あの日から何が変わったわけではないけれど
彼はこうして自分の傍にいてくれる。それが例え同情だとしてもそれが今の支えになっている事が
春歌は怖くてたまらない。

「…もう秋ですね、一年は早い」
「…そう、ですね。春からあっという間だった気がします」
廊下に並んで歩く。少し前であればそんな事は考えられない光景だったに違いない。
そう、あの夏の日の屋上。焼けつくような暑さの中で見上げた先にいた彼。
壊れかけだった自分の欠片を拾い集めてくれた、彼が。
―自分には遠く感じた人間が。
今こんなにも傍に居て。
彼も、私だって。一分一秒だって無駄に出来なのだ。秋が終わり冬が来る。そして春を迎える。
その先の未来は―

「春歌…」
前を向いたまま名前を呼ばれたので足を止めぬままに横を振り向いた。
彼はこちらを見なかった。少しの間を置いて―その静寂すら心地良い―開いた口の動きを見つめていた。

「私と、パートナーを、組みませんか?」

時が止まった気がした。
足を止めると、振り向いた彼がじっとこちらを見つめている。
あの日と同じその瞳で。

「あなたも、あなたの曲も…誰にも渡したくないのです」


頬へと触れる手があの日と同じ様に熱くて、目を伏せる。
あっという間に距離を詰めた彼はけれど今度は抱きしめるのではなく、
そっと目を閉じて―


触れた唇が熱く、眩暈がした





up 2012/07/11







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