一万打記念小説

※Sクラプリンスと春歌(瓶底眼鏡ちゃん)が幼馴染だったらパラレルです。









放課後ロマンティカ-1-




「どうして春歌がAクラスなんですかっ……!」

難関と言われる早乙女学園。
アイドルを目指すもの、作曲家を志すものが集うその学園は
一年を通してそれぞれ目指すべき道のために学び、そして卒業時には
アイドル候補と作曲家候補が二人でペアになって優勝を目指す。
優勝した者にはこの学園の学園長であり、自身もアイドルだった
シャイニング早乙女の事務所へ所属、そしてデビュー出来るというものであるが。

その難関校に晴れて合格した、幼い頃から共にアイドルになろう、そしてその作曲家になろうと
約束をした幼馴染全員でだ。

「…ハニーがAクラスだって、何の冗談なんだいそれは…」

男が三人、部屋に集まり不穏な顔で話し合いは進められる。
整った容姿が焦燥しているのは気のせいだろうか。

無事に早乙女学園の合格が決まり、それぞれのクラスの発表、そこまでは良かった。
当然の如く皆でSクラスへというのが予想だにしない事態が起きたのだ。

「…ごめんなさい、実は…入試の時に提出する筈だった課題を間違えてしまいまして」

課題を間違えたのに何故合格出来たかなんてそれは春歌の曲が素晴らしいに他ならないわけであるけれど、
昔からどこか天然でドジな所がある幼馴染が悪びれも無く目の前で笑っていた姿を思い出して
思わず涙が出そうになる。何故最後まで面倒を見ておかなかったのかと!

「まぁいいじゃねーか!別にクラスが違うからってペアが組めないわけじゃないんだろ!」

「翔…あなたは何を悠長な事を言ってるんですか?…春歌はAクラスです。ならばAクラスの人間と接する機会の方が断然に多いのです、
クラスが違うのがどれだけデメリットかという事をあなたは分かっているんですか?」

必殺早口小言と凄い眼力で睨まれた翔は思わず気を失いそうになる。難しい事を考えるのは好きではないけれど
どう考えてもこの事態はよくはない、特にこの二人には。

「…Aクラスにはあいつがいるっていうのに…イッチー」
「…分かっています、既に手は回してあります」

悪魔も裸足で逃げ出す様なその微笑みに、翔は身震いする。
昔からこの幼馴染二人は件の人物に対しての独占欲が半端ないのだ。自分だって人の事を言えたものではないけれど。


***



「…七海、春歌です…えっと…得意なのは、ピアノ…です」

入学式も無事に終わりAクラスの教室では自己紹介が行われいる。
自分の出番を迎えた春歌は緊張で喉に鉛が詰まった様だったけれど、何とか無事に自分の番を終えた。
アイドルを目指す位だ、やはり可愛い子達に囲まれる中で春歌は自分が場違いに思えて仕方なかった。
特にこれと言って優れた点があるわけでもなければ、可愛いわけでもない。
アイドルではなく作曲家を目指す自分であるならばそれでも構わない。けれどやはりコンプレックスが刺激されるのだ。

「…ハァ…やっぱり一人は不安です」

入学式からこんな事でどうするのかと弱い自分に悲しくなってくる。
何とか全てを終えて、次々に各自の寮へと帰宅する生徒の背中を見送りながらも春歌は一人教室へと残っていた。
一人きりの反省会だ。

今までどれだけ幼馴染達に守られてきたかを実感してしまった。
一人でも大丈夫だと思っていた筈なのに、実際一人になってみればとても心細い。
けれどこんな事では駄目なのだ。この学園で自分は成長すると決めたのだから。ここで音楽を学んで
自分はきっと作曲家として、デビューしてみせる。アイドルのペアを見つけて一緒にシャイニング事務所に所属するのだと。

少しずり落ちた重たい眼鏡を押し上げると春歌は小さく息を吐きだす。
けれどそれに意識を集中しすぎていて自分の目の前に人が立った事に気づかなかった。
というよりは、気配を感じ取る事が出来なかった。
突然、優しげな高い声に呼ばれて体がビクンと震えてしまう。

「ねぇ、君ピアノが得意なんでしょ?だったら今度聴かせてよ、君のピアノ」

唐突の質問に、じぶんに声を掛けられているのだと一瞬春歌は気づく事が出来なかった。

「え、えっと!?」
自分の机の前、そこに手をついてニコニコとこちらを見つめる男の子には見覚えがある。
今日の自己紹介では人一倍元気な返事で席を立って得意のギターを披露していた、

「一十木、君……?」

分厚い眼鏡のレンズを押し上げて見つめればやはりそこには同じクラスの一十木音也の姿がある。

「ごめんね、突然驚かせちゃったよね!えっと…七海って呼んでもいいかな?」
何度も言う様だけれど、突然の事態に春歌はポカンと口を開いたまま、目の前の人物を見上げる。
幼馴染意外とはあまり接した事がない春歌はあまり男性に免疫が無く、
自分何かに声をかけてくれる人がいるのかという驚きで一杯で、声を発する事が出来なかった。

「えっとごめん、嫌…だったかな?」

何も話せないでいると、目の前で元気に瞬きをしていた瞳が少し残念そうに歪んだのを見て、
春歌は目の前で両手をブンブンと振った。

「あ、あのっ…ごめんなさいっ、違うんですっ!その…私は人と話すのが、とても下手くそでしてっ…!」

しどろもどろになりながら、目も合わせられないままにそう言えば、今度は音也の方がポカンとした表情で
春歌を見つめている。
どうすればいいのか、春歌には分からない。折角声をかけてくれたのに、初めて出来るかもしれない
幼馴染以外の友達だったのに、もしかしたら嫌われてしまったかもしれない。
こんな変な女の子なんてつまらないに決まってる。そう、あの時にみたいにきっと―



「なんだ、良かった〜!俺、君に嫌われてるんじゃないのかと思ったよ、そっか七海は照れ屋なんだね」

先程までの悲しそうな顔は一変して次の瞬間にはまるでお日様の様に眩しい笑顔で彼がそう言った。
「…え……」
つまらない奴などと罵る事もしなければ、ならもっと俺と一杯話をしようよ、なんて笑顔で言って
ニコニコと微笑む彼に眼鏡の奥の瞳が何度も何度も瞬く。自分は夢でも見ているのだろうか。

「ねぇ、ピアノ聴かせて?」


微笑む彼に何時の間にか何度も春歌は頷いていた。








up 2012/05/07

一万打記念小説初めてみました!
Sクラと春歌は幼馴染設定というまたはちゃめちゃな設定ですが
最後までお付き合い頂けますと嬉しいです!

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