「やはり…行くんですねっ…」

小さな荷物一つで背を向けたそれに、
まるで胸を貫かれそうな程に悲しげな声が聞こえて
ゆるりと振り返った。

「…トキヤ、くん……」

雪が降り始めた。
まるで心が凍えていく様に。

今まで聞いた彼のどんな声よりもそれは震えて、そして
悲しく響く。そんなに悲しげな瞳で、今にも泣きだしそうな瞳で
自分を見つめた事が今までで一度たりともあったであろうか。
涼しげなブルーグレーの瞳。何時も見透かされそうで視線を合わせる事が出来なかった。
不意に伸ばされる腕に、気づいた時には抱きこまれていた。
まるで鎖の様に絡みついた腕が自分を包み込む。

「私はどうしたって貴方の一番にはなり得ないのだと、気づいていましたずっと」

「だからこそ…貴方の心が手に入らないのならっ…せめてっ……」

ずっと貴方の事だけは手放したくなかったのだと。
抱きしめて涙するそれに、自然と自分も涙が零れる。

自分はずっと彼には嫌われていたのだと思っていたから。
冷たい言葉や視線の端々からは吐露した思いを汲み取る事は出来なかった。
彼にとって自分は厄介な存在で、ただ其処にある事が当たり前の存在で。
きっとそれはそんなに大した事では無い。だって彼にとっての自分の存在なんてちっぽけなものだから。
思いを押し殺すのは簡単だった。だって今までずっとそうやって生きてきたのだから。

握りしめていたバッグを放り出すと、その大きな背中に手を伸ばす。
ぎゅうと抱きしめると、それ以上に強く抱きしめ返された。

「いか、ないでっ…何処にもいかないでっ……くださいっ…」

髪に擦り寄るその頬にそっと触れて、指で涙を拭えば、もう一つ雫が零れ落ちて。
そっと合わせた視線の先、彼は悲しげに微笑んでいて。
胸が締め付けられる。

その日初めて彼の思いに触れた気がした。





up 2012/04/05

書きたい所から書いて
終わりたい所で終わる私クオリティですいません…






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