蝶 よ 花 よ






今年の流行は蝶の様にヒラヒラとしたスカートらしい。
流行とは常に変わるものであってそれを別段特別に感じる事すらないけれど
やはり彼女がそうしたものを着ていれば何か特別に思うのはいけない事なのだろうか?
そもそも特別という時点で自分の中で置かれている位置はやっぱり「特別」なのだ。

「あの、レンさんっ…その、それ位自分で出来ますよ…?」

ソファーに腰掛ける彼女の細く小さい体は後ろから抱きしめればスッポリと収まってしまう。
そんな小さくて柔らかい体を抱きしめて、甘い香りのする髪に顔を埋めながら、彼女の指、
ネイルケアを甲斐甲斐しくするのはそんなにいけない事なのだろうか。

「俺がしたいんだよ、ハニーの爪は小さくてまるで桜貝みたいに綺麗だね」

ニコリと微笑むと、つられる様に彼女も微笑むので、そのまま再開する。
余り力を入れすぎない様に鑢をかけて綺麗なアーチを描く。まるで真っ白いキャンバスを自分の
色で満たす様に。綺麗なそれは芸術品。この指先が生み出す音楽は自分の糧であってそして二人の思いの証だ。

「あ、あの本当に…っ」

大丈夫ですからとは言わせない。折角こうしてくっ付いていられる好機をどうして逃せるものか。
鑢をかけ終わった爪に今度は鑢をひっくり返して爪の表面を擦る。
くすぐったいのか少しだけ震えている体には気づかないふりをして、もう一度甘い彼女の香りを堪能する。
この後にはまだクリームを塗る作業も残っている。

自分よりも幾分も小さな手を大きな手でしっかりと支えるとまるでエスコートする様に指先だけを上向かせる。
この指で背を抱かれるのは自分にとっては至福な瞬間であり、また何よりも話したくない指先なのだ。

「ねぇハニーこれが終わったら今度は髪を綺麗にしてあげようか」

肩越しに微笑めば、困り顔の彼女の顔がそこにはあるけれど、どうにもやめてあげられない。



 up 2012/04/04






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