突然こうして楽屋に招かれたものの、七海春歌は今最大のピンチに直面していた。

「あ、あの聖川さんも宜しくお願いします!」

最早緊張から首がちぎれるのではないかと言う位振り回して春歌は態々腰を上げてくれた
聖川真斗その人へと首を下げた。
次回のCMで共演させて頂く事は知っていたけれど顔を合わせたのは初めてだった。
元来ならば内気でお世辞にも社交的とは言えない自分には挨拶だって精一杯だ。
突然アイドルとしてデビューする事になって早数ヶ月。自分が想像していたよりも
仕事の数も増えたし、色々な方と関わりを持たせて頂けて毎日が勉強!なわけだけれども。
けれども。目の前にいざ自分がアイドルを目指す切欠になった人がいて。少しだけでも話が出来たなんて。
まるで夢の様な光景だ。
頭が爆発してしまいそうだ。なるべく後方は見ない様にしよう、春歌はそう心に決めた。

「ああ、よろしく頼む。」

皆声が素敵だけれど、落ち着いてけれどどこか甘やかな彼の声に我に返る。
あまり微笑んでいる印象は無いクールな彼だけれど少しだけ微笑んだそれは
男性とは思えない程に美しい。女性でも見惚れる程だ。
流石シャイニング事務所を代表するトップアイドルは並大抵じゃない。
そんな一般人の様な感想を抱きつつも失礼にならない程度に視線を逸らすと、他の面々にも頭を下げた。


「で、何時までそうしているつもりですか音也」

先程から動く事すらままならない音也にトキヤは溜息を吐いて肘でつついた。

「あの…どうかなさったのでしょうか…私、ごめんなさい大事なお話の最中でしたよね」

失礼しますと去ろうとするその腕を掴んだのは那月だ。

「春ちゃんもう帰っちゃうんですかぁ?」
「あ、あのえっと…これ以上お邪魔になってはあれですし…」

後ろの方では相変わらず動かない音也を揺すり続ける翔の姿とそれを見つめるトキヤの姿が。

「レディ、そんなに急いで帰らないでもここに座って一緒にお茶でもどうかな?」

座ったまま優雅な動作で隣の席を進めるレンの横へと那月に背を押されてストンと座りこんでしまう。
右隣には聖川さん、左隣には神宮寺さん。この状況は一体なんなんだろう。
春歌はパニックになったままレンの入れた紅茶を勧められて有難うございますとそれを受け取ってしまう。
心なしか聖川さんに見られている様な気がする。怖い。
ビクビクと震える子羊の様な春歌の後ろでは那月が何やら髪の毛を弄りだした。

「わ〜春ちゃんの髪の毛、さらっさらですね!羨ましいな〜僕は凄いくせっ毛なんですよ」
手櫛でサラリと梳かれて頬を染める。この業界に入ってから髪の毛に触れられる事は増えたが
こうして男性に触れられるのはやはり緊張してしまう。

「そ、そんな事ないですっ!四ノ宮さんの髪もミルクティーみたいに綺麗な色、です」

緊張して声が震えてしまったかもしれない。けれど自信がない自分の事を褒めて貰えるのは素直に嬉しい。

「春ちゃんは優しいんですね、とっても可愛いです」

チュ。というリップノイズと共に髪へと口づけられたのが分かって、春歌はボンと顔を真っ赤にさせて爆発する。

「おいおい、シノミー君って時々凄い大胆だよね」
「四ノ宮、こ、こんな所で婦女子にキスなどと破廉恥だ!」

妬けるねぇなどと冷やかすレンとは反対に少しだけ頬を染めて顔を逸らす真斗に混乱した春歌はそこから抜け出す事が出来ず
ジタバタと手を動かす。
「春ちゃん顔が真っ赤ですよ、大丈夫ですかぁ?」

非常に大丈夫では無いしこのキラキラした部屋から抜け出したい。

「も〜う、春ちゃんが怯えてるじゃない!そろそろあなた達も本番よね、私達はお茶でもしましょ」

今までニコニコと見守っていた林檎の声に促される。
語尾にハートマークが見えそうな林檎のセリフだが今はそれが助け舟に思える。

「あ、あの!お騒がせしてすいませんでした、一十木さんも今後共よろしくお願いします!」

転がり落ちそうな勢いで椅子から飛び上がると春歌は林檎に駆け寄ってもう一度頭を下げる。

「あ、崩れ落ちた」

翔の隣でペシャリと潰れた音也に、大丈夫ですかと春歌が駆け寄って再起不能になるのは10秒後だ。





up 2012/03/10

一度書いたのが消えた時はちょっとだけ涙が出たよ(/_;)







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