「すまない一十木…実は俺も彼女と茶のCMで共演する事になった」

まるで子犬の様にへばりつく音也に苦笑しつつも椅子に座りながらそう告げた真斗に音也は今度こそ持っていた雑誌を取り落とした。
バサリ、と予想以上に大きな音を立てるそれに楽屋が一瞬静まりかえる。
「マ、マサも…春歌との仕事…回って……」

「あ、春ちゃんだぁ!実は今度僕もお菓子のCMで一緒に…ってあれ?」

そこに空気を読まずに割って入った那月に翔が後ろで必至にジェスチャーを送るが彼には届いていない様だった。
「…まぁ、ほらイッキは最近忙しかっただろう?きっと今に彼女と共演の話が…」
そこでさりげないフォローを入れるレンなどお構いなしに
楽しみですねぇなどと隣で那月の声が聞こえてくるので台無しなのは間違いないわけで。
「…何をそんな事で落ち込んでいるんです、それでもアイドルですか」
一部始終を見守っていたトキヤが痺れを切らした様に立ち上がって座り込んだまま廃人になっている音也を見下ろす。その視線はいつも通り涼しげで若干怖い。

「だって春歌のライブチケット取れなかったし、握手会にだって行けなかったんだよ!?」
ソングステーションでも一緒になれなかったし、こないだなんて…
まだまだ続く音也の不満にここまで来ると行き過ぎな様な気もするが本人は至って真剣なのだから笑ってはいけない。
重くなった空気を払拭する様に豪快な音で突然扉が開かれる。

「おはやっぷー!!あらぁ皆どうしたの、顔が死んでるわよ、か・お・が!アイドル失格よ〜!」
巻き髪が動きに合わせてくるくる揺れている。顔こそ本当に女性の様だけれど性別は男性の、
以前はここにいる一部が担任として世話になった事務所の先輩はあの頃と変わらず何時でもハイテンションだ。
「林檎せんせぇ突然どうしたんですか〜?」

あの頃の呼び名のままの那月に、先生はやめて頂戴などと嘯きながら現役アイドルで男の娘の月宮林檎は朗報よ〜♪やっぱりあの頃と変わってはいない。
「じ、つ、は、今日からうちの事務所に新しく入る子がいるのよ〜、その子を紹介しておきたくて」
ニコニコと満面の笑みで喜びを隠しきれないのか、
うふふと微笑んで後ろをチラリと見やるそれにこの場にいる全員の視線が後ろのドアへと注がれる。
「入ってきていいわよ〜!」
その声に、控えめに開かれたドアからか細い声が聞こえた。




up 2012/03/04




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -