※現パロ
※下ネタ













 近頃の俺はおかしい。何を見ても、何を聞いても、全くと言っていいほど興奮しない。所謂、インポテンツなのかもしれない。
そんな事を目の前で面倒くさそうにしている帆田に相談してみると、適当に鼻で笑われてしまった。

「何がおかしい」
「いやなんかね、白竜もそういう事するんだなと思って。安心したよ」
「当たり前だろう。俺だって男だ」

所詮人事でしかないからなのか、それとも下らないと思っているのか、帆田は先程から目も合わせてくれない。こっちは真剣に悩んでいるというのに、腹立つ男だ。
 二週間程前までは、確かに普通だった。普通にAVやエロ本にも興味があったし、ちゃんと自分で処理もしていた。それが二週間前から、何のきっかけも無しに本当にぴたりと勃たなくなってしまったのだ。性欲旺盛なこの年頃の男子が、こんなにも急にインポテンツなどになるものなのか。ひょっとしたら何か一種の病気なのではないか、そう疑ってしまうのも無理はないだろう。
 そう言ったら、またもや笑われた。

「そうだ、じゃあこれ貸してやるよ」

帆田はごそごそと鞄の中を探りだす。やがて、じゃーんなどという安っぽい効果音を自ら口ずさみながら、不透明の袋に入れられた何かを取り出した。おそらくDVDだ。

「俺のオススメだよ。これ見たらお前の悩みだってすぐ解消されるぜ?」
「…本当か?」
「そういう時はちょっと趣向を変えてみるべきなんだって。マンネリしてんだよ、お前は」

 …趣向?マンネリ?
ビニール袋の中のDVDを少し怪しく思いながらも、結局それを受け取る事にした。まぁ、試してみる価値はあるだろうくらいの気持ちで。短く礼をすると、帆田は困った時はお互い様だろ、と笑う。やはり持つべきものは友人だ。

「そろそろ帰ろうぜ」

 そう言って帆田は読んでいた漫画を閉じる。俺も机に広げていたノートや教科書を借りたDVDと共に鞄に閉まった。





 家に帰っていつものようにリビングに入ると、机の上に「今日は遅くなります」の書き置きと一緒に夕飯が置いてあった。お腹を空かせていた俺はそれをすぐに平らげ、汗だくになった体をシャワーで洗い流し、宿題を終わらせてから自分の部屋に戻った。まだ完全に暗くはなっていないものの、親が帰ってくる前に済ませてしまおうと俺は借りたDVDを取り出しプレーヤーを起動する。しっかりと部屋の鍵を閉めた事を確認し、再生ボタンを押した。



「………」

 数分。下らない茶番劇を終えいよいよ本番のシーンに切り替わったものの、俺のものは全くと言っていいほど反応を見せない。心も、まるでAVを見ているとは思えない静けさだ。ヘッドフォン越しに聞こえてくる喘ぎ声を耳に、なんだかげんなりとした。何が趣向だ、何がマンネリだ。AVの内容も、俺の体も、何一つとしていつもと変わりはない。
わざとらしい声をあげる画面の中の彼女は、なかなかアイドルらしい顔立ちをしている。どうしてAV女優になったのだろう、そういえばこの仕事はなかなか金が入ると聞いた事がある、一体どれくらい入るのだろう。画面を見つめながらそんな事を考えている自分にますます嫌気がさした。それでも、触っていれば何かしら変わるかもしれないと思い、熱を持っていないそれを取り出して触れてみる。その時だった。ガラ、という音と共に、冷たい風が室内に入り込んできた。


「白竜!すごい発見した!僕の部屋から君の部屋、屋根を伝ってジャンプしていけば30秒もかからないんだよ…って……」


 …え?

唐突に部屋の窓から現れたのは、隣の家に住む幼なじみのシュウだった。

「…」
「…」

まるで世紀の大発見をしてしまったかのような口調でまくし立てていたその言葉は、俺と目があった途端に勢いを失った。当然だ。
シュウは俺の目を見て、次に俺の手に握られているそれを見て、最後にヘッドフォンのコードに繋がっている画面を見て、完全にフリーズしてしまった。そしてまた俺も、そんなシュウの表情を見てフリーズしてしまった。時が止まった空間の中で、あんあんと耳障りな喘ぎ声だけがヘッドフォンを通して虚しく俺の頭の中に響いていた。

「………」

沈黙は続く。俺は酷く間抜けな体制のまま動けない。何を口にすべきか、様々な思考を張り巡らせている脳内と、それとは別に「屋根と屋根をジャンプするって、どんだけ野生的なんだよ普通に危険だからもうやめておけ」と妙に冷静な言葉を思い浮かべている自分がいた事が不思議だった。

「……」
「……あ、」

ふいにシュウが我に帰ったように体をびくつかせた。

「ご、ごめん、僕…その…」
「…」
「えっと、なんていうか、白竜もそういう事するんだね…」

そう言った後、シュウはあからさまに何言っているんだ僕は、という顔をした。その頬は心なしかほんのりと赤い。お前も帆田と同じ事を言うんだな、俺は回りの人間にそんな風に思われているのか。

「…帰るね!」

ピシャリ、とご丁寧に窓を閉めた音で俺も我に帰る。誰もいなくなった部屋の中で、俺は動けないまま。見られた。見られた、見られた、見られた…。

「…」

先程まで冷静に物事を考えていた自分はどこに行ってしまったのやら、一気にどん底に落とされた気分になった。
まさか窓から侵入者が現れるとは、微塵も思わなかった。鍵をかけなかった今朝の自分が憎らしい、腹の底から叫びたい、床の隅から隅へ転がってやりたい。別に男同士だからいいじゃないかと思われてしまうかもしれないが、そういう問題じゃないのだ。シュウとは小さな頃からずっと一緒だった。だからこそ知っている、あいつは性教育を受けていないのか、全くと言っていい程下ネタを話さない奴なのだ。そういうのを不潔だと思っているのかもしれない。俺もまた、そう思われたかもしれない。明日から一体どう接すればいいのだろう。
一通り声にならない悲鳴を上げた後、いつのまにか俺の痴態を見られた恥ずかしさは、「どうして俺が男の幼なじみにこんなに気を使わなければならないのだ」という逆ギレ的発想に変わっていた。そうだ、女の幼なじみだったら確かに気を使うのも無理はないが、あいつは男だ。あいつも俺と同じ年頃の男なのだから、性欲が皆無なはずがない。「白竜も」と言っていた、きっとシュウもやっているのだろう。そもそも、ノックもせずに入ってきたシュウが悪いのだ、俺が引け目を感じる必要は何もないはず。開き直って俺は先程投げつけたヘッドフォンをもう一度耳にかけた。相変わらず画面には女の裸体が映し出されている。

「…」

 彼女の目元は少しだけ、シュウに似ていた。先程の赤面したシュウの顔を思い出す。彼が赤くなっているところなんて、初めて見た。シュウも、こうやって一人でしたりするのだろうか。彼女の髪の毛の艶やかな黒も、日に焼けた肌も、シュウのものに少し似ている。シュウは一体何を見て、どんなふうに、一人でするのだろう。こんなふうに俺がシュウを組み敷いて、キスをして、突っ込んでやったら、どんなふうに喘ぐだろう。多分シュウはこんなあからさまな喘ぎ方はしないだろう、声は押し殺すに違いない。少しだけ目に涙を浮かべながら、俺の名前を呼ぶんだ。心臓の鼓動が早まる。これ以上はいけない、そうわかってるのに、妄想は止まらない。俺の頭の中は、シュウを犯すことでいっぱいだった。

 …まさか。下半身に違和感を感じ、俺は目を見開く。ゆっくりと視線を下ろすと、もう遅かった。反応していた。確かに興奮していた。今まで何を見ても何を聞いても全く感じなかったのに、こんな嘘みたいな妄想だけで勃ってしまったのだ。信じられない、そう思いながらも、手は止まらなかった。俺はその夜初めて、大切な、唯一の幼なじみで抜いた。








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