※三年後







もう長いこと、温かくてふかふかの布団で眠っていなかった気がする。柔らかなまどろみの中で僕はぼんやりとそんな事を考えていた。あぁ、睡眠というものはこんなにも心地よかっただろうか。あまりにも心地よすぎて指先ひとつ動かすことすら億劫だ。

「…ウ、シュウ、」

どこか遠くで、誰かが僕の名前を呼んでいる。起きなくちゃ、頭ではわかっているのにどうしても瞼が動いてくれない。

「シュウ、起きろ、シュウ」
「あとちょっとだけ…」
「シュウ!」

なんだかやたらと乱暴に肩を掴まれてしまった。そうまでして僕を起こしたい理由でもあるのか、と少し反抗的に考えて、僕はしょうがなく重たい瞼を上げた。するといまだぼんやりとする視界には、白竜の顔。

「…どうしたの白竜、そんなに焦って」
「どうしてお前がここにいるんだ!」

そんな大声出さなくとも聞こえてるってば。ていうか、どうしてってどういう意味。僕たちよく一緒に寝てたりとかしてたし、こういうの今に始まった訳じゃないでしょ。そう口にしようとして白竜をまっすぐ見つめた途端、僕の体は思わず固まった。やたらと焦っている白竜の顔が、僕の知っているものよりも随分と大人びていたから。

「…え?」

僕と白竜は見つめあったまま、数分間硬直した。



***



その後しばらくして我に帰った白竜によって、ここは僕と別れてから三年が経った世界なのだと聞かされた。そうだ、確かに僕はあの島にいた。白竜や天馬たちとサッカーをして、彼らが島を去ったのを見届けて、それから。
成仏したはずの僕がいったいどうして、島から遠く離れた白竜の部屋のベッドにいたのだろう(それも、三年後の世界だ)。この世界にはもう未練など無い、確かにそう思っていたはずなのに、もしかしたら僕は心のどこかで白竜に未練を残していたのかもしれない。
白竜は複雑そうな表情で、僕の顔をじっと見つめていた。

「…本当に、お前なのか」
「うん」
「夢とかじゃなくて?」
「ほっぺたつねってあげようか」
「頼む」

僕が頬をつねると、白竜は痛みに眉をひそめる。僕の体は以前と同じ、物や人には変わらず触れる事ができるようだ。人間が考え出した幽霊のイメージとやらは本当にあてにならない。

「…シュウ、なんだな」
「うん」
「…久しぶり、だな」
「はは、僕は全然そんな感じしないんだけどね」

寧ろ僕からしてみたら白竜が突然3つも老けちゃった訳だから、これはこれで衝撃だ。髪の毛は短くなっているし、背だってかなり高くなっているし、肩幅も広くなった。もう立派な男の人だ。それに比べ、先程鏡で見た僕の姿は、眠りにつく前と何ら変わらないまま。やっぱり僕は何度ここに戻ってきても、大人になる事は叶わないのか。そう思うと何故だか、僕ひとりが白竜の言う三年前の世界に取り残されたかのようで悲しかった。

「…かっこよくなったね、白竜」

そっと今つねったばかりの白竜の頬に手を伸ばす。彼は少しだけ泣きそうな顔をして、僕の手に自分のそれを重ねた。

「…お前は変わらないんだな」

声も姿も、悲しいくらいあの頃から変わらないんだと、そう言った白竜の声は濡れていた。



120104/ちょっとだけ続きます



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