「君って雨とか嫌いそうだよね」
窓の外ではざあざあと激しい音を立てながら雨が降っていた。この島では滅多に降らないその雫を眺めながら、シュウは今にも掻き消されそうな声でそう言った。
「当たり前だろう。雨だと外で練習もできないし、薄暗いし、湿っぽくなるし…」
「じゃあ白竜は、今日こうしてここで雨が降ったことなんていつかは忘れちゃうね」
「は?」
随分と突拍子のないことを言う。その言葉を一体どんな顔をして口にしたのかと思わず振り向けば、シュウはいつも通り何も映っていないのではないかと疑うほどに真っ暗な瞳で外を見つめていた。
「…なにが言いたい」
「僕はね、結構雨好きだよ」
そう言ってシュウは目を細める。そういえばシュウは以前、花や水や星や太陽も好きだと言っていた。それに加えて雨も好きだというのか。彼に嫌いなものがあるのだろうか、万物を愛す彼の存在は、まるで神様のようだとすら思った。そう彼に伝えると、そんな訳無いでしょ、と笑われてしまった。
「僕にだって、どうしても許せないことのひとつやふたつあるよ」
シュウが時折見せるその暗い表情の理由を尋ねたことはまだない。俺が俺なりの地獄を抱えているように、きっとシュウもシュウなりの地獄を抱えているのだ。だから彼が時折見せる暗い表情は、俺を安心させる。彼の存在は神様なんかではなく、ただの人間なのだと思いしらされるからだ。彼がもしも神様などという崇高な立場の存在ならば、きっとこの腕じゃ届かない。