甘い妄執に取り付かれる | ナノ甘い妄執に取り付かれる | ナノ
「降旗の手、ぬぐいっきゃな」


 彼女の冷たい手にぞわりと栗毛が立った。冷たい風を浴び頬が赤く染まる彼女にそっか、と返す。上手く言えない気恥ずかしさからまともに顔を見れずにまた目線を逸らす。自分の好きな女の子の表情さえまともに見れないなんて情けない。手の平の熱が逃げていくのに、顔に段々と熱が篭るのがわかった。
 付き合っていないのに手を繋ぐなんて事をしていいのだろうか。誰かに見られたら、なんて不安を抱えながらも、手の平の温度は段々と調和していく。そうしてまたバスが来ないのかと来る方向へ目を向けた。


「な、これ見でみへ」

「……す、凄いね」


 だべ? そう返した彼女に画像、貰ってもいいかなと聞いた。快く了承してくれて、そっと胸を撫で下ろした。赤外線で送られてきた画像を見て顔が綻びそうになる。アドレスも交換しておこうかとなった時には生きててよかったなあ、と思った。


「な、下の名前なんだっけさ」

「え、あ、光樹」

「光樹、ね」


 不意に彼女によって囁かれた言葉のせいでまた顔が赤く染まった。しかし、丁度窓が曇っているバスがやってきたから、彼女は気付かなかったけれども。その時の自分は、告白しようとしていた事なんか頭から消えていた。それを思い出したのは、彼女は降りた後直ぐの事だった。

愛になる日を夢見てる
20121114
――――――
企画「方言少女」様に提出
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -