不思議な違和感






よくはわからなかったが、アイリスは家がないらしい。身寄りもないそうで、セブンスヘブンに連れて行くわけにもいかず、結局は俺と共に、教会で生活するようになった。…ただ、そこで寝起きし、そこにいるというだけなのだが。
仕事を終えて帰ってくると、遅くなければ出迎えてくれ、遅ければ先に眠ってしまう。帰りを待つ人がいてくれることが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
……しかし、だ。

「クラウド、また、難しい顔してる」

「ッ…!」

こうして顔を覗いてくるのは、心臓に悪い。長い睫毛や、まっさらな淡いグリーンの瞳がどうにも目のやり場に困る。額のペイントにふれてそっと身体を押し返すと、アイリスは呆気なく俺から離れた。何かで描いているような触感ではなかったが、一体あれは何なのだろう。

「腕が痛むの?」

さすがに隠しおおせるものではなく、腕のことはバレてしまった。しかし、アイリスは星痕をよく知らず、故にこの病を恐れることもなかった。今の時代で星痕を知らない人間がいるとは思えなかったが、その出現からしてどこか浮き世離れしていたアイリスのこと、理由もなく納得している自分がいる。

「大丈夫だ」

「…クラウド…」

自分自身にも言い聞かせるように強く言う。ふと見えたアイリスの横顔が誰かに似ている気がした。
アイリスは不思議だ、と思う。時々ふっと見ると、つい最近会ったばかりだというのに、懐かしく感じられるのだ。髪が長いからか、ティファと間違えそうになったり、不思議な雰囲気だからか、エアリスと呼びかけそうになったり、彼女はなぜか、そういった懐かしい人々の影を思い起こさせる。

「……仕事に出てくる」

「うん、わかった。行ってらっしゃい」

背丈格好はまったく似つかないのに、一体どうしてなのだろうか。そう思いながらも、思念を振り切るように教会を後にする。今日はどこまで足を伸ばそうか考えながら、フェンリルのエンジンを噴かせた。





ティファからの留守電でヒーリンへ向かったのは良かったが、やはり相手が神羅のレノだったからか、ろくな話ではなかった。倒壊した神羅ビルから、奇跡的に生還したルーファウス…彼の護衛をしないかと誘われたのだ。当然断ったが、道中俺を襲ってきたカダージュの一味とやら、そして一物隠していそうなルーファウス……どうやら厄介なことになりそうだ。
教会にフェンリルを走らせながら思う。カダージュたちは、流れるような銀髪、残虐なことを楽しむかのような口元、そして翡翠の瞳から、片翼の英雄を思い起こさせた。けれどどうしてか戦いの最中に、アイリスのことを思い浮かべてしまって決まりが悪い。誰かに似ている、という訳ではないのだが。
ガチャン…と静かな教会に扉の開閉音が響く。アイリスの姿は、やはりエアリスの花畑にあった。こちらに背中を向けているが、頭上から差し込む光できらきらと髪が輝いている。目を細めて床を鳴らしながら歩くと、壊れた長椅子などが視界に入る。眉を寄せると、ふっとアイリスが振り返った。

「どう、しよう」

その声は今にも泣き出しそうだった。まったくの無表情であるのに。

「なん、」

一歩踏み出して、アイリスが腕に誰かを抱えているのが見えた。投げ出された手足と、広がる黒髪。

「っティファ!!」

誰かわかった瞬間に駆け出し、アイリスの隣に膝をつく。ティファの体を抱き寄せて軽く揺する。目に見えた怪我はないが、彼女ほどの人間が気を失う理由はわからない。

「ん……」

小さく唸り、強く瞑った目をゆっくりと開く。目を開いてから少しぼうっとするが、すぐに飛び起きてマリンの名前を呼ぶ。

「っ……!」

顔をしかめて腕の中に沈んだティファを抱き締めながら、辺りに目を配る。マリンはいない。よく見ると、ケースに入れていたマテリアもそれごとなくなっていた。

「誰にやられた?」

「…知らない奴」

自分自身に歯噛みする。隣にいてさえ、良かれと思い距離をとってさえ、大切な人たちを俺は守れない。
ビリッと電撃が貫くかのような痛みが走り、星痕がじくじくと痛み出す。腕が痙攣し、ティファを支えていられなくなる。

「クラウド!」

アイリスにも色々と聞きたいことがあったのに、耐えきれず、意識を手放した。直前に視界に飛び込んだアイリスが母親に見えるほど、俺は疲れているようだった。



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