君は誰だ






最近、エアリスの教会で寝起きしている。決して居心地はよくないが、だからといって他に行く宛もなく。
――あれから二年経った。
ミッドガルを中心に荒廃していた世界だったが、それもやっと、少しずつではあるけれど、復興の目処が立ってきている。俺は配達屋を営んでいる。命あるもの以外は何でも、世界中のどこへでも、というのがウリだ。

「…っつ、」

左腕を這い上がる鈍い痛みに顔をしかめる。あの戦いから、あの出来事から、ライフストリームの異常か、奇妙な病気があちこちで発生し始めた。星痕症候群、と呼ばれている。体の一部に黒い膿のようなものができ、痛み、広がり、やがては衰弱死してしまう病だ。
つい先日だった。まだ、ティファやマリン、デンゼルと暮らしていた頃、夜遅くに配達から帰ってきて気がついた。星痕症候群がある、と。気がつくと、セブンスヘブンを出ていた。一緒にはいられない、と思いながら歩いていたら、ここへたどり着いたのだ。それからは、寝る場所として使わせてもらっている。
今日も仕事が少し長引いた。教会に帰ってくる頃にはとうに日付がかわっていて、空はすっかり星で覆われていた。
扉を開ける音が、異様に大きく響く。そして足を踏み入れて、止めた。

「――アンタ、誰だ」

エアリスが大切に育てていた花の真ん中に座り込む人影。こちらに背を向けているが、少なくとも知り合いではない。これほど鮮やかな金髪の持ち主を、俺は知らないからだ。腰まであり、外側に大きく緩やかに広がる金糸は見てわかるほどに細く、天から降り注ぐ僅かな月明かりに輝いていた。白いシャツの上に、深く赤い色のワンピースを着込んでいる。どういう風にか肩が出た恰好で、その両肩には…どんな塗料を使用しているかわからないが…淡いグリーンの円が描かれている。

「……わたし?」

何秒経ったか、やっと人影が声を発した。それから辺りを見回して、自分自身の声に首を傾げた。雰囲気もそうだが、仕草もどこか普通とは異なっている。今まさに、自分が花畑に座っていると気付いた様子で、恐る恐る花に触れる。言っちゃなんだが、ひどく怪しい。

「わたしが、誰か」

さすがに記憶喪失の人間を拾うほど厄介には巻き込まれたくないと眉間にしわを寄せると、人影は微笑んだ。

「わたしは、アイリス」

「…そうか。それで、アンタはなぜここに…」

「アイリス」

アイリスと名乗った不審人物は、俺の言葉を強く遮った。それを少し不服に思うが、ため息をついて訂正する。

「アイリスは、なぜここに?」

荒廃しきったミッドガルで、自分の家や近隣以外をうろつく人間は少ない。ミッドガルはこれだけ衰退こそすれ、魔物は出ない。しかしこの教会のように、天井や壁が今にも崩れそうな危険な建物も多いのだ。そして何より、この教会へ来る人物は少なく、またこんな夜更けの訪問者は俺の知るかぎり初めてだ。

「気がついたら、ここにいたの」

…それもこんな、珍妙な。

「家は?」

それまでやや後ろから姿を伺っていたのだが、ふいにアイリスが振り返った。思わず目を瞠る。
小さく首を横に振った彼女の髪がさらさらと揺れた。真ん中で大きくわけられている前髪の割れ目から、白い額がのぞいている。そしてそこには、肩と同じようなペイントがなされていて、それは肩のものに比べていくらか小さな円だった。
何より驚いたのは、瞳。丸く、大きなそれはほどよい長さの睫毛に縁取られている。その色は、エアリスを思い出すような、あるいはセフィロスを彷彿とさせるような、さらに言えば、いつか見た生命の流れのような色だった。



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