俺は、何をやっているのだろう。
彼女が、今の南場が俺を知っているはずはないというのに。

「ん?九州?」

渋沢と同じ武蔵森の藤代が、俺に気付く。

「九州?そんな奴が何しに…」

「南場!!」

大きな声で名前を呼ぶと、南場は驚いた様子で振り返った。

「……え?」

向こうは俺を知らないのだから、教えてもない名前を呼ばれたら当然驚くだろう。

「あの…はじめまして、ですよね…?」

肯定することは簡単だが、簡単なそれがなぜか躊躇われた。

「えーと…」

困ったように笑う南場を見て、やっと何か言わなければと口を開く。
しかし、言葉は何も出てこない。

「……カズ、先輩」
「っ!?」

ぽつりと南場が呟いた言葉に目を開く。

「…え?あれ?私、いまなんで…」

本人にとっても不思議なようだが、俺にとってはその一言で十分だった。

ありったけの思いを込めて、今度こそ口を開く。

「夏帆、」

最初で最後の名前を呼ぶ。

「ずっと、」

きみのためだけに用意していた言葉がある。

初めてその背中を見たときから、言いたかった言葉がある。

繰り返す時間の中で、抱いた感情がある。

届いてくれと願いを込め、南場を真っ直ぐに見つめた。

「ありがとう」

南場はきょとんとすると、小さく笑った。

「……はい!」





(20120110〜20120113)
(20100327修正)


 

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