それは純情すぎるパーカッション ※保育士×園児



ぽかぽかとした心地よい日の光が注ぐ中、いつもなら誰よりも元気に走り回るあの子の姿が見当たらない。
園児たちが遊んでいるグラウンドを目を凝らして探すが、いない。
どこにいってしまったのだろう?と焦燥を隠さずにいると、不意にくいくい、とエプロンを引っ張られた。
見れば春市と暁がどこか難しい顔をしてこちらを見ている。


「…みゆきせんせー」
「ん?どーした春市?暁?」
「あの、えっと…えいじゅんくんがね、」
「え…栄純どこにいるか知ってるのか?」


こくり、とうなずく彼らと目線を合わすべくしゃがむ。
栄純と一番仲の良い二人からの情報ならば、確かだろう。
きっとまたイタズラか何かをして怒られるのを怖がって隠れているのだろうと思った。
が、二人から発せられた言葉は意外なもので。


「あのね、えいじゅんくん…」
「…ないてる。きょうしつで」










二人から教えてもらった教室に足を運んでみれば、わずかに扉が開いていた。
園児が皆外に出た後なのだろう。中は明かり一つついておらず薄暗い。


「栄純?いるのか?」
「……っ……みゆきぃ…」


泣きじゃくる声の方へ行けば、グズグスと教室の隅で膝を抱えて栄純が泣いていた。
負けん気が強くて我慢強い栄純がこうも泣いているのを見るのは初めてだから、余程のことがあったに違いない。
「隣、いいか?」と聞けばわずかにうなずいてくれたので、隣に腰を下ろし慎重に言葉を選んで話をする。


「こんな所にいたのか。春市と暁が教えてくれなきゃ分かんなかったよ」
「………」
「栄純。何か、あったんだな?」

こくり

「無理強いはしないけど、俺でよかったら話してみ?」
「………」


ゆっくりと髪をすきながら口を開いてくれるのを待つ。
しばらくそうしていると、ボロボロと泣いていた目をそのままに、栄純がこちらを見上げた。
今にも溢れんばかりの大きな瞳が悲しげにこちらを見つめる。
やっべー何この子超可愛い、という不謹慎な感情はとりあえず無理矢理丸め込んだ。


「どーしたんだ、栄純?」
「…みゆきぃ……おれ、ヘンなのか?」
「何で?」
「…きょう、おえかきしてたら…みんなこっちのてでクレヨンもつのに、おれだけこっちなんだもん……そしたら、みんながヘンだって…」


そういって小さな左手を見せる。
なるほど、大体の話が掴めてきた。


「みんなみたいに、がんばってこっちでかこうとするけど、できないし……おはしやスプーンだって、おれだけこっちだし……おれ…ヘン、なのかな…っ」


しばらく止んでいた涙が再び溢れ出す。擦ろうとする左手を柔らかく制し拭ってやる。
そういえば自分にも幼い頃、似たようなことがあったものだ。

真ん丸な瞳を覗き込むように目を合わせ、ゆっくりと諭す。


「いいか、栄純。栄純はヘンでもなけりゃまして病気でもないんだ」
「……っ……ほんと?」
「本当。むしろ左利きってスゴいことなんだぞ?栄純みたいな左利きはな、野球じゃスゴく貴重なんだよ」
「きちょー?」
「珍しいってこと。ピッチャーにゃ最高の武器だ。なんたって左利きはなかなかいないからな」
「ほ、ほんとーか!?」


段々いつもの調子に戻ってきている栄純をくしゃくしゃと撫でてやる。
あと一押しってところかな。


「それに左手が使えるのはお前だけじゃないぜ?倉持先生もだ。正確にはアイツ、両手使えるんだぞ?」
「ふおぉ…!スゲー!」
「だろ?だからお前はヘンなんかじゃなくてスゲーんだよ。左利きは栄純にとっての最強の武器だからな」
「…おう!おれのぶきだっ!」


ニカッと笑ってやればニッと笑い返された。
俺がガキの頃は視力が悪いせいで一人メガネかけてたの馬鹿にされていたから、栄純の気持ちがよく分かる。
こうなる前に気をつけておくべきだったな…と思っていると、ぼふん!と腹に衝撃。
何事だ?と見下ろせば、こちらを見上げながら至極嬉しそうに笑う栄純が。
それだけで可愛いらしいというのに、




「ありがとみゆき!だいすきっ!」




えへへ、と笑い最後にぎゅーっと抱きしめたかと思えば「おれ、みんなとあそんでくるな!」と軽快な足取りで栄純が教室を出て行った。
パタパタと可愛らしい足音を立て春市と暁の名前を呼ぶ声を聞きながら、バタンッと大の字でフローリングに倒れ込む。
だーもうチクショー可愛いなコノヤロウ。
なんつー爆弾落としてくれるんだあの子は。
倒れた勢いでぶつけた後頭部の痛みなんて気にもなんねーわ。





(それは純情すぎるパーカッション)
(…テメェ何赤面しながら身悶えてんだよ)
(だって栄純に告られたんだもん!)
(ガキの「好き」を本気にしてんじゃねーよ!)





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