不器用な優しさ  ※先生×生徒



「…で?お前今回の期末の点数いくらだったっけ?」
「えっと……その…………32、点…デス……」
「ほーう…他でもないこの俺の担当教科だってのに、赤点たぁいい度胸してやがんじゃねーの。あ゛ぁ?」
「…や、本当すみませんでした倉持先生いっそ土下座しますから元ヤンをチラつかせるのは止めて下さいぃぃい!!」
「るせーよ沢村。そんなに技かけられてぇのか?」
「えええ遠慮しますぅぅう!!」

数学科準備室でかれこれ30分程続いているやり取りはもはや孝査明けの習慣となっている。
教育用のデスクに行儀の欠片もなく片足を組んで座っている倉持に見下ろされる形で沢村は正座していた。
長時間の正座でも足が痺れないのは小さい頃から躾られていたおかげだ。
こればかりは両親とじいちゃんに感謝する。
どうせなら勉強面での躾もちゃんとお願いしたかったけど。

「今回が二学期の期末だから、残り孝査は学年末の一つだって分かってんのかお前?」
「…ハイ」
「オール赤点じゃ確実に進級無いぜ?」
「………ハイ」
「それで?俺に何か言うことは?」

うっ、と言葉に詰まる。沢村は倉持が先生として決して苦手でも嫌いでもない。
むしろ生徒のことを良く理解してくれている、今時珍しく生徒皆から気に入られてるいい先生だ。
沢村自身、ダントツで好きな先生だと思う。思うのだが。

「その……留年は免れたいので……」
「おぅ」
「……足りない分の追加課題と補習指導を……」
「おぅ」
「………」
「………」
「…………………オネガイ、シマス」

ああ、とうとう頼んでしまった。いや他に留年を免れる道は無いのだけれど。
今にも消えそうな声で頭を下げた。
倉持自身は好きなのだが、孝査後恒例の補習は苦手だった。
この30分間一度も上げることのなかった頭はそのままで、チラリと視線だけで先生を見ればニヤリとどこか危ない感じを漂わせた笑みとぶつかった。
なんだこれ全身から嫌な汗が出るぞ。

「ヒャハ!…いーぜ。俺が嫌ってくらいシゴいてやんよ」

早速明日の放課後からな、とだけ残して先生は準備室を後にした。
一週間頑張れんのか俺。いや、今までも同じように乗り切ってきたんだ。
きっと今回も何とか乗り切れる…ハズ。多分。

「…耐えろよ俺の身体ぁっ!」

涙目になりながらもこれから一週間、分からない問題がある度に技をかけられ続けるであろうことを沢村は覚悟した。
ちくしょう教育方針からスパルタと言う言葉を消してやりたい。





「いーけないんだぁ、いけないんだぁー」
「…あ゛?」

後ろ手で準備室の扉を閉めると懐かしいフレーズが飛び込んで来た。
あえて視線を動かさずに盛大に舌打ちをする。小学生かテメェは。

「一人の生徒だけを贔屓するのはちょっと頂けないねぇ、倉持センセー?」
「テメェが先生なんぞつけるな気色悪い!つかお前にだけは言われたくねぇよこの沢村ゾッコン野郎が!
…勘違いしてんじゃねーぞ。生憎俺はお前と違って下心なんぞ無いからな」
「あ、マジで?なら良いんだけど」

薬品の臭いが染み付いた白衣を揺らして御幸がわざわざ俺の正面に移動してきた。
なんだその笑顔は。チクショウ殴りてぇ。もう拳の準備は出来てんぞ。

「暴力反対ー。喧嘩沙汰はクビへの第一歩だぞ?」
「うっせぇよ。この世からお前を消して何で咎められなきゃいけねーんだ」
「おー怖い怖い。ちなみに何で怖い倉持センセーは沢村だけ特別に補習してんでしょーねー?」

その言葉に威嚇半分本気半分で握りしめた拳をゆっくりと解き、心の底から深く溜め息をついた。
御幸に背を向ける形で歩き出せば、さも当然のように遅れてついてくる足音。
どうやらシカトをかますのは無理らしい。
仕方ない、と言わんばかりにもう一度溜め息をつけば「幸せ逃げるぞ?」と何が楽しいのか眼鏡越しにニヤニヤ笑う御幸を尻目に口を開く。


「辛いだろーが」
「…あ?」
「沢村は特に、留年したら辛いだろーがよ」
「………」
「あのバカよりによって野球部だぞ?留年すりゃ同じ学年だった奴らと甲子園行けなくなるかもしれねぇからな。
例え行けたとしても同じ学年だった奴らが三年生になりゃそれが引退試合だ。なのに一人変に取り残されんのは嫌だろ。
…ったく、他の部活に入ってりゃいいものを」

ボキボキと派手に首の骨を鳴らす。
鳴らしたついでに御幸を見れば酷く真剣な顔をしていた。
御幸が言わんとすることを口より先に目で訴えてくる辺りタチが悪い。

「……それを免れるためなら嫌われるようなスパルタもいとわないって訳?」
「けっ。悪いかよ」
「いや、不器用だなーって。基本苦労人だもんな、お前。ドンマイ」
「…ほっとけ」

そんなこと一々御幸なんかに言われなくても自分が分かっている。
これから先も恐らく直らないであろう己の性分を軽く恨みつつも、まあそれが沢村のためになるなら良いかと無理矢理打ち切って早足で職員室へと向かった。
とりあえずは明日の補習で使うプリントの準備だ。




(不器用な優しさ)
(あ、でも沢村贔屓は許せないから俺が補習指導変わるわ)
(テメェは黙ってろ化学教師!)




*****
パラレルアンケートで「倉沢」と「先生×生徒」の2つをいっぺんに使ってみたり。
続きます。






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