只今絶賛迷子中


少し前までは見渡す限りの銀景色だった。
それが今では見渡す限りのビルと人、人、人。
自分以外の人間が早足で過ぎ去ってゆく。
代わり映えのない迷路の様な景色のせいでぐるぐると目が回る。


「…ビル…人…人…ぐるぐる…」

ふらふらふら。余りの人の波に酔う。ふらふら、ふら。
先程から同じ景色ばかりが繰り返す。
コンクリートジャングルとは良く言ったものだ。
これが都会か、なんて感動を通り越して早くもホームシックになる。
さして大きくない手荷物がずしりと重く感じられた。

「…お腹減った……かに玉…」

ポツリと呟いた言葉は故郷に比べれば幾分よどんだ…ように見える青空に吸い込まれてゆく。
ぽつんと東京の中心に一人立ち尽くすも、相変わらず自分以外の周りの時間だけが速く流れてゆく。
はたまた自分の時間が遅すぎるのか。



腹の虫をなだめつつ、とりあえず人の波に乗りながら歩けば、ふとあることに気付いた。

「…あれ…何で東京に来たんだっけ……?」

首を小さく傾げるも誰かが親切に答えてくれるはずもなく。
唯一返ってきたのは自分に不慣れな喧騒だけだった。




―――それは手にしている大学の地図の存在さえ忘れる程の不慣れな喧騒。




 
←menu



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -