そして超えたボーダーライン 同級生パラレル



雲一つない快晴の空から降り注ぐ陽の光が、足元の黒土を眩い程に照らす。
反射するそれを一歩踏み出せば淡く立ち上る土煙。
遠目に見える人の群れは「青道」の名にふさわしく一面の青で。
仰ぐ太陽の眩さにに目を細めて深くキャップを被り直した。
ベンチとグラウンドの瀬戸際の境界線を潜り抜ければ、始まる。
とうとうここまで来たのだと沢村は人知れず笑みを浮かべれば、ふと隣に影が差した。
わざわざ見ずとも誰か分かった。
伊達に長い間共に過ごしてはいない。


「…三年間なんて案外早かったな」
「本当、あっという間だったなー」

自分より少し高めの位置から掛けられた声に苦笑を漏らす。

「最初はお前が駄目過ぎてこの先どうなるかと思ったけどな」
「んなっ!?」
「馬鹿だしすぐ泣くし野球全く知らないしうるさいし初日から寝坊するし」
「人の事言えねーじゃんか!最後のは御幸もだったろ!」
「あれ?そうだっけ?」
「そうでしたー」


軽く口を尖らせながら、隣を振り向かずただひたすらにグラウンドを見つめる。
勝手も負けてもこのグラウンドをベンチから見るのは最後。
目に焼き付ける様に一心に食い入れば、すぐ傍からプロテクターをはめるキャッチャー特有の音。
それを聞いたら一気に沸き上がる現実味。
途端広がる緊張と不安は足元を掬いかねない底無しの闇。
それに押し潰されては駄目だ、と数回被りをすれば案外ストンと気持ちが落ち着いた。
幸運にも一年の頃からベンチ入りをして経験を積ませて貰ったことがこんなにも活かされていた。
どうやらそれは隣も同じだった様で、御幸が溜め息を浅く長くついた。


「…ここまで来たんだな、俺達」
「うん。…でも、これからなんだよな」
「甲子園か…近いけど遠いな、こりゃ」


相手はなんと言っても稲城実業。甲子園の前哨戦と言うには不足は無いが、重すぎる相手だ。
向こうのベンチからは同じ様にこちらを見ている面々の痛いまでの視線。
それらを一蹴して再びグラウンドに目をはせれば稲城の白が残像として残り、すぐに土の色に消えた。


「御幸」
「ん?」
「…ありがと」
「…は…ははっ…」
「んだよー」
「いやいや、まさかお前が礼を言うようになるとはね。これぞ成長ってヤツ?」
「うっせーメガネ」
「残念、今は眼鏡じゃなくてスポルディングサングラスだから」
「メガネと大差無いじゃん」
「いやいや全然ちげーよ。眼鏡はレンズあっての眼鏡なんだよ。
だから眼の鏡なんだよ。これはどう見たってレンズじゃないだろ。
アンドゥースタンド沢村君?」
「メガネについて力説すんじゃねー!」
「はっはっは。実は眼鏡って書けないだろ、お前」
「んだよチクショー人がせっかくお礼言ったってのに!
そーゆー御幸は全く性格丸くならなかったな。最初の頃から全っ然変わってない!」
「そ?これでも結構優しいんだけどなぁ。…勿論お前限定で」


語尾にハートがつきそうな言葉に赤面しかけるのをぐっと堪えた。
試合、しかも甲子園行きのかかった決勝戦前だというのになんてことを言い出すんだ。


「〜〜〜〜っ!恥ずかしーヤツっ」
「でも最近沢村がクールと言うか、冷たくて悲しい訳よ。これも成長ってヤツ?」
「けっ。御幸のあしらい方を学んだんだよ」
「…あしら…っ!?」
「…って前に倉持から言われた」
「テメー倉持ぃー!何沢村に教えてんだー!」
「ヒャハ。事実だろーがよ!…つーかお前ら今から決勝ってのに良くそんな能天気でいられるな。
負けたら間違いなく先輩達に殺されるってのに」
「うげ。俺絶対スピッツ先輩からどつかれる」
「俺はクリス先輩から無言の重圧喰いそー…。
いや、亮介さんから笑顔で責められる方が格段に死ねるわ。…でも、まぁ」




――球場に響き渡るアナウンス。
それに伴い大きくなる観客の歓声。
うるさいまでの蝉の声。
むせかえる程の太陽。
肌を刺すような容赦無い陽射し。
とめどなく伝う汗。
これから足跡だらけになるグラウンド。


……これが申し分無いくらい俺達が待ち望んだ、夏。





「ウチのエースは負ける気なんて更々ないからな」





そうだろ?と恐らく意地の悪そうに笑っているであろう御幸に答える変わりに、沢村はグローブを掴み、誰よりも早くグラウンドに踏み出した。





(そして超えたボーダーライン)
(くっきりと残した俺の足跡)
(追う様に続いた彼の足音)







*****

4321HITのキリリクで、「同級生御沢」でした。
ええ、そうです。誰も3年設定にしろとは言ってません。
…すみませんでした。(平謝り)
「同級生」と聞いた瞬間何故最後の稲実戦が頭の中を駆け巡ったのか分からない…
しかもこれ御沢と言うより御+沢に近くなった気が…
コンセプトは「こいつら甲子園行き掛ってる試合の寸前にふざけあってるよ」という御沢でした。
はわわ、こんなので宜しかったのか…!?

実羽様に限りお持ち帰り可とさせて頂きます。
クレーム大歓迎です。





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