聖夜鐘の音が響く頃 25日  ※サンタクロースパラレル続き


午前6時30分。降り続けていた雪が止み、静かに長かった夜が明けていくのをこの街一番の高さから見下ろした。
クリスマスの朝は早く、辺り一面の銀世界にぽつぽつと灯りがともり始める。
それと同時に聞えだす子供達の嬉しそうな声に一晩中動き回った疲れが消え自然と笑みが浮かんだ。
冷たくさえざえとした空気を大きく吸い込み、一気に吐き出す。

「MerryX'mas!お疲れ俺!」
「本当にな」
「うぎゃぁぁあっ!?」
「んだよそんなにビックリするなって」


突然後ろから声がしたかと思えばくぁ、と欠伸をしている御幸が立っていた。
見れば何やら疲れきった顔をしている。
自分も疲れていないと言えば嘘になるが、黒サンタとはそんなに疲れる仕事なのだろうか。


「御幸…!?えっと、お疲れ様。なんか顔酷いぞ?」
「ああ、一晩中神経ピリピリさせてたからな。疲れたわ寒いわでもーくたくた」
「はは、隣座る?」
「それじゃあ遠慮なく。……へー、結構眺め良いんだな」
「だろ?」


音も無く御幸が隣に座る。一面の銀世界にポツリと取り残された様に映える黒が何だか酷く現実味を損なわせている。
向こうからすればこちらも同じ様に見えているのだろうが。
何だか世界と二人だけ隔離された気分だ。




「沢村」
「ん?」
「寒いからくっついて」
「はぁ!?…ってちょっと!寄りかかるなよ!」
「おー、あったけーの。子供体温?」
「こっから落とすぞコノヤロウ」
「はっはっは。わざわざ立ち寄ったってのに酷くね?」
「うっ……勝手にしろ!」
「それじゃあ遠慮なく」


左肩にかかった重みは自分より低いとは言え温かい。
少し顔をずらして御幸を見れば整った顔立ちにドキリとした。
視線に気付いたのか御幸がこちらを見てきて更にドキリとする。


「なぁ」
「んー?」
「何でわざわざ来てくれたんだ?そんなに疲れてんなら早く帰れば良かったのに」
「だって今日逃したら次会えるの一年後だろ」
「…あ、そっか。すっかり忘れてた」


今更ながらそのことに気付く。あの時また会えるか聞いていなければうっかりあのままサヨナラだったのか、と思って安堵した。


(…あれ?今何で俺ほっとしたんだ?)


不可解な感情に首を傾げていると、時計台の鐘の音が街中に響き始めた。
それを合図とする様にいくつもの家々に灯りがともり、それに耳をすませば聞こえる子供達の喜びの声。
一通り聞き終われば隣で小さな溜め息が聞こえた。


「もう7時か。そろそろ帰んなきゃだな」
「え、ああ…うん。そうだな」
「何?俺と別れるのが寂しい?」


(…寂しい?)


御幸に言われてと気付く。先程ほっとした理由はこれか。



「うん…寂しい、かも」
「え」
「え?…うわっ!?」


突然ガバッと御幸が起き上がったせいで左肩にかかっていた重みが一気に消え、バランスを崩しそのまま左に身体がよろめいたのを寸の所で支えられた。
その反動で顔を上げると御幸がじっとこちらを見つめていた。


「み、御幸?」
「今の言葉、本当か?」
「今のって?」
「俺と別れるのが寂しいってやつ」
「あ、うん…多分。俺まだまだ御幸と話してみたいし、御幸のこと色々知りたいし」


言いながら余りにも真っ直ぐ見つめられるもんだから何だか恥ずかしくなって視線をずらした。
ずらしたは良いがなかなか返事が返って来ない。
俺何か変なこと言ったかな?と視線を戻せば意外なことに御幸が目を丸くしていた。


「御幸?」
「…あーもー、お前今の顔反則な」
「は?」
「今は分からなくて良いからとりあえず聞くわ。お前、プレゼント欲しい?」
「欲しいも何も俺サンタなんだけど」
「俺だってサンタだ。昨日も言ったけど俺だってたまには良い子にプレゼント届けてみたいんだよ」


だから良いだろ?と念を押す様に微笑んだ御幸に言葉が詰まる。
何というか、先程までの疲れを一切感じさせない整った笑顔は凄味がある。


「…別にいーけど…」
「じゃあ決まりな。よし、帰るぞ」
「え、いきなり!?つーかプレゼント何か聞かねーの!?」
「だって時間無いだろ。それにプレゼントはもう渡したからな」


プレゼントをもう渡した?いつ?何を?
訳が分からず辺りを見回すが勿論それらしき物は何処にもない訳で。
何のことだと御幸を見れば随分楽し気に笑っている。


「そういう訳だから」
「え…?へ?いや何が!?」
「道案内は頼んだぞ」
「み…道案内…?」


待て待て、落ち着け余計に分からなくなってきた。とりあえず整理だ、整理。
御幸は今何と言った?道案内?俺が御幸を案内するような場所って何処だ?
その前に確かに御幸は「帰る」と言ったよな?帰るって何処に?
それに渡されたと言うプレゼントは?
上手く回らない頭を必死にフル回転させること一分でようやく理解した。
…が、理解したら理解したで今度は言葉が出てこない。
言葉にならず口をパクパクさせていると御幸が意味深に笑った。


「やっと意味が分かったみてーだな」
「み、御幸…なあ…まさか、それって…」
「そ」





「俺、今日から赤サンタになるわ」





「…は…え、うそ…」
「本当。だってプレゼントだからな。こうすりゃいつだって会えるだろ?
ああ大丈夫、俺優秀だから赤サンタでもやっていけるし。それとも俺がプレゼントじゃご不満?」


不満も何も無い。つまりは俺の為だけに赤サンタになると言うのだ。
仕事内容が違うとは言え根本的にサンタには変わりないのだから不可能ではないだろうが、とにかく信じられないのだ。
基本的にクリスマス以外はフリーだから会おうと思えば会えないことはないだろう。
しかし御幸はあえてそうはせず、赤サンタになると言い出した理由が見つからない。


「いつでも会えるようになるのは嬉しいけど、何で俺の為にそこまでするんだよ?」
「だって俺、沢村が好きだから」
「へ…?好き!?誰が誰を!?」
「俺が沢村を。一目惚れってやつ?それにお前もだろ?だってお前顔真っ赤」


言われて両手をパチンと頬にあてればこの寒空の中異様に熱を持っている上、何やら鼓動も速い。


(あ…そっか。俺、御幸のこと好きなんだ)


もっとうろたえるのかと思ったが、何故か妙にストンと腑に落ちた。
が、そうだと思い知った途端更に顔に熱が集まるのが分かった。
うーっ、と唸りながら恐る恐る御幸を見上げれば眼鏡越しに酷く優しい目とぶつかる。


「どうよ俺のプレゼント。最高だろ?」


どうもこうも無い。こんなプレゼント反則だ。
ほてりの冷めない顔は諦めて一呼吸置くと、今度はこちらから心臓に悪い端正な顔をひたすら真っ直ぐ見つめた。
そして笑う。






「悔しいけど…最っ高のクリスマスだよ」








(聖夜鐘の音が鳴る頃に)
(ちなみに俺、今日から沢村ん家に住むから)
(はぁ!?)
(いやぁいきなり同棲出来るとかラッキーすぎるわ)
(…なんか俺、惚れる相手間違ったかも…)








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -