有言実行しなきゃいいけど


「随分嬉しそうっスね、クリス先輩」
「何か良いことあったんですか?」
「…倉持に御幸か。今日の練習はもう終わったのか?」
「俺は終わりましたよ。倉持はこれから亮介さんと少し合わせるそうです」
「コンクールに向けた新譜に取り掛らなきゃなんで」
「そうか。お疲れ様」

学食の一角、自分の昼食を半分程食べながら腰を掛けていると各々の昼食の乗ったプレートを持って御幸達が向かい合わせに座ってきた。
見れば二人して人の悪いと言うか、ニヤリと何か企んでいるような顔をしている。

「で、何があったんですか?」
「…お前達こそ随分嬉しそうだな…」
「ヒャハ。クリス先輩があからさまに機嫌良いからっスよ」

自他共に認める感情が表に出ないタイプなのだが、そんなに顔に出ていただろうか?と口を軽く手で覆う。
どうやら話すまで離してくれない雰囲気だ。
別に隠すことでもないし、いずれは紹介するつもりではいたので構わないか…と昼食の手を止めた。

「実はな…」
「実はさ、何だかクリスのお気に入りの子が入ってきたみたいなんだよね。ね、クリス?」
「うおっ、亮さん!?」
「亮介…」
「相変わらずいきなり現れますね、亮介さん…」
「やあ。隣良いよね?」
「良いも何ももう座ってるだろ…」
「まあね」

有無を言わせぬ笑みを向けられ、承諾の意を込めて溜め息一つ。
一連の流れを終えて、御幸が亮介の方に向き直った。

「クリス先輩のお気に入りの子…ですか?」
「そ。確かピアノ科だったよね?」
「ああ」

亮介に話したのは随分前だったと言うのに覚えている辺りやはり食えない奴だ。

「ヒャハ!どうりで機嫌が良いと思いましたよ。で、どんな子なんスか?」
「言っとくけど女の子じゃないからね」
「なーんだ、残念」

冗談半分で笑う御幸を見て、大学一の人気者が何を言うんだと笑う。
隣で同じ様に笑っていた亮介が、ふと静かになった。

「…ただし噂の新入生の一人ではあるけど、ね」

明らかに変わった声のトーン。それに一瞬御幸が目を見開いたが、すぐに目を細めた。
同じ指揮者だから分かる、そこに見えたは一人の指揮者としての目。

(…やっぱりお前は青道一の指揮者だな…)

「へぇ…前言撤回。一度会ってみたいもんです」
「ヒャハハ!俺も!」
「勿論俺もね」
「…お前らな…。…っと、こんな時間か。すまないが俺は用事があるから先に行くぞ」
「例のお気に入りの子ですかー?」

頬づえをつきながら楽しそうに尋ねる御幸に、今度はありありと溜め息をついた。
全く勘が良いのも困り物だな。

「…そんなに気になるなら、ついて来るか?」
「それじゃあ遠慮なく」
「んじゃ俺も…」
「倉持は今から俺と新譜の練習、だよね?」

逃がさないよと言わんばかりの笑顔を向けられた倉持が固まっているのが見なくとも分かった。ご愁傷様、と心の中で呟く。

「……ハイ……」
「はっはっは。ドンマイ倉持。後で報告してやるからよ」
「要らねーよ」




二人を見送った後、二人分の席がぽっかり空いたのを見ながら一気にお茶を飲み干す。
先程のやり取りを思い出して、亮介の方に向き直り頬杖をついた。

「…にしても珍しいっスよね。あのクリス先輩があそこまで気にかけてるなんて…」
「当然だろ。なんたってクリスをどん底から這上がらせた張本人なんだから」
「…え、マジですか?」
「嘘言ってどうするんだよ。全く…どんな奴か楽しみだよ。でもまぁ、とりあえず俺達は練習ね」
「そっスね」



 
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