とりあえず急ごうか


「確かここを右に…」
「わっ!」

勢い良く曲がれば突然現れた誰かに盛大にぶつかってしまい、そのまま後ろに倒れてしまう。
それは向こうも同じだった様で二人分の人が倒れる音がした。

「いってー…わ、悪い!怪我ねぇか!?」
「う、うん…大丈夫、です」

顔を上げてぶつかった相手を見ればどうやら同じ入学生らしい。
立ち上がってズボンを払う。

「ほら、立てるか?」
「あ、ありがとう…」

よっ、と手を引き寄せて立ち上がらせるとワインレッドの細長いケースが目に入った。

「うわっ、それ楽器だよな!?大丈夫だったか!?」
「あ…うん。これくらいじゃ壊れたり傷付いたりしないから大丈夫だよ」

そう言ってぎゅっと大切そうにケースを抱える。
音楽に携わる者にとって楽器は命だが、それ以上に何か思い入れでもあるのかな…と沢村はぼんやり感じた。



「そっか。良かった…。なあ、アンタも新入生だよな?名前聞いても良いか?」
「そういう君もなんだね。俺は小湊春市。オーボエ科だよ」

ケースの中のオーボエが揺れてカシャンと音がした。

「俺は沢村栄純、ピアノ科。よろしくな、春っち!」
「…え。春っちって、俺?」

途端、顔を真っ赤にしてあわあわとし出した春市に驚く。
不快感でも与えてしまったのだろうかと窺う。

「…駄目だった?」
「ううん、そんなこと無いよ!よろしくね、栄純君っ」

未だ頬を染めている辺り、どうやら相当な照れ屋らしい。
そんな彼は一体どんな音を出すのだろう。期待に胸を膨らませつつも、ふと当初の目的を思い出す。

「やばっ!ついでにもう一個聞いても良い?入学式のあるホールって何処か分かる?」
「ああ、それなら…」
「それなら?」
「…実は俺も聞きたかった」



 
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