それが全て、だった


「ここが青道大学…?すげぇぇ…!」

開いた口が塞がらないとはこういう状況を差すのだな、と身を持って知った瞬間だった。
流石有名音大なだけあり敷地面積が半端無い。

「最初の内は皆何処に何が有るか分からないぐらいだからな。心配しなくてもその内慣れるだろう」
「うー…」
「とりあえず俺は先に行く。入学式では騒ぐなよ」
「わ、分かってます!…うおー、キンチョーする…!」
「珍しいな。実技試験で緊張しなかったお前が…」

前々から良くも悪くも物怖じしない性格だとは知っていたが、実技試験を終えて会いに行ってみれば緊張をするどころかケロッとして
「すっげー楽しかったっスよ!」と笑顔で言ってのけた時には流石に驚いた。

(普通緊張しすぎて手が固まると言うのに…コイツは)

やはりここを薦めて正解だったな、と軽く笑えば沢村が不思議そうにこちらを見ていた。
紛らわす様にくしゃりと髪を撫でる。

「お前の事だ。すぐに慣れるだろう」
「うす!じゃあクリス先輩、また後で!」
「ああ」



一足早く校舎へと入ってゆくクリスを見送りながら沢村はへへ、と笑った。
自分の前を歩くその後ろ姿にはもう以前の彼の面影は無い。
それが嬉しくて嬉しくて。

(そのクリス先輩が俺にこの学校を薦めてくれたんだ)

ならばその期待に全力で応えたい。
ここを受けた理由は他にも有るけれど、今の自分にとってはそれが全てだ。
期待と不安が入り混じりながら込み上げる感情を少しばかり押さえて、沢村は校門を駆けて行った。



 
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