世界が変わった瞬間


自分にとってピアノは遊びの延長だった。

鍵盤を叩けば応える様に音を溢すそれが唯々面白くて。
楽譜なんて知らなければ正しい弾き方なんて知らない。好きな様に鍵盤を叩けば思った通りに音が鳴る。
それが自分にとってのピアノの全てだった。
…そう思っていた。彼と彼の「音」に出逢うまでは。




自分とそう変わらないのに、凛とした姿で一心にヴァイオリンを奏でる彼は何処までも輝いていた。
次々に溢れる鮮やかな音色。彼の顔はもう忘れてしまったが、あの音だけは今でも鮮明に思い出せる。
それは今まで自分の「音」しか知らなかった自分にとって、初めて他人の「音」を知った瞬間だった。


「…俺もあんな風に弾けたら…」


もっと楽しいのかな…と、ぽつりと呟いた言葉とは裏腹に、幼い沢村の瞳は何処までも何処までも彼を見据えていた。




 




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