何故か胸が痛むのです ※幼馴染パラレル


夏の日差しは容赦無く身体から水分を奪う。
コンクリートではないと言え照り返しが酷く、ギラギラと反射する光のせいか視界がぼやけて霞みだす。
心なしか世界が揺れているのは気のせいだろうか。それに何やら周りの音も酷く遠い。

(ムシムシ…クラクラ…ムシムシ…)

ついにぐらり、と世界傾いたのが分かった。
しかしその感覚は無く何処か曖昧でぼんやりとしたままだ。
(なんか、いまいち現実味に欠ける…)
なんて思っていたら。

「……暁っ!?」

幼なじみの悲痛な声が何処からか届いたかと思えば、後頭部に鋭い痛みが走って一気に現実味が湧いてきた。

(今更遅いよ…)

と思うより早く暗転する。




(…何だろう…冷たくて気持ちいい…)

頬にひんやりとした感覚がゆっくりと降谷の覚醒を促す。
それに抵抗することなく目を開ければグラウンドとは違う白が目に入った。
にしても異様に白く、これまた現実味に欠けている。

「…まさか僕、死んだ?」
「なワケあるか馬鹿!」

独り言のつもりが答えが返ってきたことに驚いて振り向けば意識を失う寸前に聞いた声の主がそこにいた。

「…栄、純…?」
「おう。…暁、お前ぶっ倒れた時のこと覚えてるか?」
「僕倒れたの?」
「…つーことは覚えてないのか。お前、体育の時間に熱中症で倒れてそのまま救急車で病院送りになったんだ。ちなみにここは個室の病室な」

言われてポツリポツリと思い出す。確か授業でソフトボールをやっていた最中だったはずだった。
起き上がろうにも身体が重く、仕方なく頭を動かして辺りを見回せば左腕に繋がる点滴がぶら下がっている。
反対側には沢村が一人ベッド脇に座っていた。

「そう…」
「倒れた時は流石にビックリしたけど、症状は軽いからすぐに帰れるってよ」

そう言うと同時にひんやりとした何かが再び頬に当たる。
首を動かして見ると沢村がタオルで拭っくれていた。
普段の彼からは想像もつかない優しい手付きが心地よくて軽く目を閉じる。

「…そっか。天井だったんだね」
「何の話だよ」
「あんまり視界が白かったから、死んだのかと思った」
「生憎俺は天使じゃねー」
「そんなの言われなくても分かるよ。第一栄純が天使とか嫌だ」
「…何だろ何かムカつく…!」



不意にぴたりと沢村の手が止まり、どうしたのかと目を開ければ沢村がうつ向いていた。
辺りは既に夕方になっていて、窓側にいる沢村の顔が逆光で見えない。

「…栄純?」
「ゴメンな暁…俺が、もう少し気をつけとくべきだった」
「…何で」
「暁は昔から暑いの苦手って、誰よりも知ってたのに…」

幼い頃、北海道から引っ越してきた自分は土地柄か暑いのが苦手だった。
そのせいか小学生くらいまでは頻繁にバテたり眩暈を起こし、その度に沢村が誰よりも早く自分の変化に気づいて保健室に引っ張られたものだ。
最近は身体も慣れたと思っていたから正直油断していた。

(でも、そんなの)

「栄純のせいじゃない、でしょ?」
「そう、だけど…でも…っ!」

勢いに任せて上げられた顔はくしゃりと歪んでいた。
幼さを残した大きな瞳には薄い膜が張っている。

―――ずきり

(…あ、れ?)

「…俺、暁が倒れた時…本気でビックリしたんだからな…!良く分かんねぇけど、怖かったんだからな…っ!」

タオルを持つ手が僅かに震えている。
自分が倒れてからの間、ずっと沢村に心配をかけていたことに今更気付いた自分の無神経さを呪った。
彼のことだから恐らく目が醒めるまでずっと傍にいてくれていたのだろう。

―――ずきり、ずきり

(何で…)

「栄純、心配…」
「したに決まってんだろ馬鹿!倒れてからずっと、お前苦しそうだったんだからな…!」

ぐっ、とタオルが強く握られたせいでぽたりと水が溢れる。
きっとシーツに染みになっているな、と頭の片隅でぼんやり思った。

「…心配かけて、ごめん。でももう一度言うよ。君のせいじゃない」
「………っ」
「高校生にもなって、自己管理出来ない僕のせい。だから、栄純が謝る必要は無い。…僕が言いたいこと、分かるよね?」
「………おぅ…」

こくり、と頷いて溢れそうだった涙を拭う沢村の左手をそっと掴めば驚きを隠せないままこちらを見る瞳とぶつかる。
持ち上げた右手が酷く重い。

(なん、で)

熱中症のせいで全身ダルいし倒れた時の衝撃で後頭部はズキズキすると言うのに。

(何で…胸が一番痛いんだろう?)

分からなくて沢村に答えを求める様に握った手に力を込めれば、微かに「無事でよかった」と呟くのが聞こえた。
その声を聞いて少しだけ痛みが和らいだ、気がした。




(何故か胸が痛むのです)
(だって君が泣くもんだから)
(僕の為に泣かないでよ)







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -