君の心に触れさせて


「お前の心に触れさせて」
「…はい?」
「いや、だからお前の心に触れさせて?」
「えーっと…物理的に不可能です」
「うわ、なんか沢村が冷たい」

御幸さん悲しいよ泣いちゃうよー!と勢い良く抱きつけば、案の定沢村がジタバタもがき出した。

「ちょ、いきなりなにすんだ!」
「いきなりが駄目なら宣言してやるよ。御幸、いっきまーす!」
「そういう問題じゃねえっ!」

如何せん手加減0で抵抗されるもんだから、こっちも離れまいとしがみつく。
己の餓鬼っぽさに俺一体幾つだよ、と頭の片隅で思わないでもない。
しかし余りにも暴れられるもんだから流石に離してやるかと思った瞬間、ピタリと沢村の抵抗が止んだ。
流石の俺も驚いて沢村の胸に埋めていた顔を上げれば困った様な表情とぶつかる。



「…沢村?」
「アンタ、どうかしたのか?」
「え」
「なんか…いつものアンタと違う、気がする」

自信無さげに声を弱めながらも断言し、眉をひそめこちらを窺う沢村に心の中で溜め息をつく。
真っ直ぐ俺だけを見つめる瞳が不安げに揺れている。
…ああ、もう

「…どうしてこういう時だけ目敏いかなぁ、お前は」
「御幸…?」

唯単に単純で馬鹿で無防備で鈍感ならば良かったのに。
そうであったならどんなに楽だったことか。

(…なあ、お前の心に触れさせてよ)

時々酷く不安になるんだよ。この俺が、こんな餓鬼相手にだぜ?笑えるよなあ。
でも本気だから、本気で好きだから騙して陥れて、なんてことしたくないんだ。

(お前が俺をどう思ってるか、知りてぇよ)




「どうかしたのか?具合悪いんなら早く休めよ?…オイ、御幸?」
「ごめん沢村。少しだけ」

少しだけこのままでいさせて下さい。
その意を込めて腕の力を強めれば顔を僅かに赤くした沢村が目に入った。

「…少しだけだからな!」

そう言いながら少しぎこちなくとも優しく髪を撫でる沢村の優しさに今は少しだけ甘えるとしよう。
とくん、とくん、といつもより少し速くなった鼓動がお前の心だと嬉しいよ。




(君の心に触れさせて)
(俺だっていつも余裕な訳じゃないんだ)







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