当事者は気付きにくい


誰にでも分け隔て無く接し、誰にでも笑顔を惜しみもなく見せる。
それは見ていて微笑ましい筈なのに、何故かイライラもやもやするつきまとっては離れない。
きっと今まで接したことの無いタイプの人間だからだろう。
自分とは余りにも性格が正反対過ぎて

「君って良く分からないね」

と思っていたことを溢してしまった。
たまたま隣にいた沢村は当然だが大きな目を更に見開いている。



「…は?」
「だがら、君が良く分からないんだ」

夜のグラウンドを二人してタイヤを引きながら走る。
夜風が頬を霞めて心地良い。

「あのなあ…お前の話題は唐突過ぎんだよ。つーかそりゃお前の方だろ!?」
「…そう?」
「そう!無表情でぼーっとしてて何考えてんのか分かんねぇ。まあオーラで何となく分かっけど」
「ふーん」

自分は他人の目にそう映っているらしい。
特に否定することもなく返すと、何か思い出したように「…ああ、でも」と沢村が呟く。

「でも?」
「マウンド上がってるお前は…カッコイイと思う…うん。ま、勿論俺も負けてねーけどな!」
「………」


(…ああ、そうか)


沢村が分からないのではない。単なる羨望と嫉妬でもない。
要は今まさに向けられた屈託の無い笑顔を独占したいのだ。
本当に分からなかったのは、この気持ちだ。

「…うん、ありがとう。イライラもやもやが消えたよ」
「…やっぱお前が良く分からん…」


(今はそれで良いよ、いつか)


いつか君もまた今の僕みたいに、僕の思いに気づいてくれる筈だから。
自然と口角が上がる。少し熱った頬に夜風は丁度良かった。





(当事者は気付きにくいもの)
(でも気付いてしまえばこっちのもの)





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -