狼まで後何秒?


「お前本当タイヤ好きだな」
「そりゃ俺の相棒っスからね!…ってアンタいつからいたんだよ!?」
「珍しく降谷とのタイヤ争奪戦にお前が勝った辺りから?」
「それって最初からじゃないスか…」


日課であるランニングwithタイヤをいつもより早めに切り上げ、相棒を倉庫になおしていたらいつの間にかいた御幸。
見ればバットが握られていて、近くで素振りをしていたのが容易に分かった。

「なあ」
「はい?」
「20球オンリーで球、捕ってやろっか?」
「………へ?良いのか!?じゃない、良いんスかっ!?」

なんたって最近は御幸と降谷、自分とクリス先輩でバッテリーが固定していた為、球を受けてもらうのは久々だった。
喜々としてグローブと球を用意する。

「はっはっは、現金な奴だな」
「なんとでもっ!」



*****



「結構調子良いじゃねーか。球が走ってんぞ」
「マジっスか!」

一球一球御幸と御幸のミットだけを見つめて一心に投げれば心地の良い音が夜のグラウンドに響く。
捕る相手によってミットに収まる音が違ってくるものらしい。
雑音が無い静寂の中だからこその発見。

「んじゃラスト一球」
「うす!」

めいいっぱい振りかざした左手。今日一番の音を出してミットに収まったボール。
クリス先輩とでも良いが、やはり御幸相手だと何かが違う。

「…ナイスボール」
「何か言ったか?」
「いんや?お前の球取りづれえって」
「酷っ!」

ついさっき放ったボールを受け取るために小走りで御幸の元に行く。
ボールを受けてもらったのだから片付けは自分がしなければ。

「先戻ってて良いっスよ?後片付けとくんで」
「おー、なんか先輩と後輩な会話。ちょっと感動ー」
「アンタやっぱムカつく」
「はっはっは」
「でも…アンタに捕ってもらう時の音が一番好きだ」
「…音?」
「パァンッてボールがミットに収まる音。クリス先輩に投げるのも好きだけど、御幸相手が一番好きだ…うん。
なんつーか…しっくりくるし、投げてて気持ち良い」

へへ、と笑えば珍しく面食らった顔をしていて驚いた。
続いて急に下を向き片手で顔を覆う様にした御幸に思わず首を傾げる。



「…御幸?」
「…あーもー、お前絶対今みたいなことクリス先輩に言うなよ。つーか誰にも言うな」「は?何がだよ?」
「…この鈍感野郎…」

一人呟くなりボールが収まったままミットを外し地面に放った。
ドサリと音がしてボールが静かに転がる。

「…み、御幸?」
「分かんないかなぁ。…俺が言いたいのはな、」

空いた両手が不意に腰に回され、そのまま抱き寄せられる。
余りにも突然過ぎてなされるがまま前方に倒れれば御幸の肩口に額がついた。


(…あれ?俺、もしかして今…抱きしめられてる…のか?)


「誰彼構わす"好き"なんて言葉、使うんじゃねーよ」
「っ!」

耳に這う様に近付けられた口から囁かれた自分とは違う少しかすれた低い声。
思わず肩が跳ねる。

「へぇ、耳…感じんの?」
「……っ!み、御幸!アンタ何して…!」

せめて顔だけでも遠ざけ様とすれば、御幸と見つめ合う形となり思わず言葉に詰まった。


(反則だ、こんな、こんな)


こんな真剣で…でも優しい表情、マウンドでも見たこと無い。



「あー…悪ぃ、沢村」
「………へ?」
「もう我慢なんね。覚悟しろよ?」

優しかった表情が一変したのを沢村は御幸とのキス越しに見つめていた。




(狼まであと何秒?)
(1秒もかかってない…)
(俺にしちゃかなり我慢したんだけどなぁ)
(ぜってー嘘だっ!)



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