眠る君に秘密の愛を


「なーにしてんだコイツ」

就寝前の自由時間。練習がハードだったことも有るのだろう。
今日は良く喉が乾いた為、自販機に向かえば遠くから見えた誰かの影。
一体誰だ?と思って近付いてみれば、自販機の隣のベンチですやすやと眠る沢村の姿。
良くもまあベンチで爆睡出来るもんだ。


「おーい沢村ー、起ーきーろー」

いくら夏と言っても陽が暮れればそれなりに冷える。
ポジション上投手が肩を冷やすのを黙って見過ごす訳にはいかない。
それに不安定で硬いベンチで寝ていれば、いくら身体の柔らかい沢村でさえ身体を痛めかねない。

「……んぅ……」
「うわ、コイツマジ寝してやがる」

いくらゆさゆさと肩を揺らしても起きる気配がまるでしない。
どーすっかねえ…と視線を合わせる様にしゃがめば、自販機の光に照らされる沢村の寝顔が目についた。


「…可愛い顔して寝てやがんの」

ふにふにと幼さの残る頬をつつく。
畜生、常にこの寝顔を拝見出来るとか羨ましいぞ倉持!と心の中で悪態をつけば、嫉妬に比例して大きくなるイケナイ考え。
流石に寝込みはなぁ…と自分にストッパーをかけてみるものの、所詮は自分で自分にかける脆いストッパーだ。


「眠ってる間ぐらい、いい…よな?」

言い訳もそこそこにサラリと前髪を払い額に、頬にと触れるだけのキスをすれば僅かに震える瞼と困った様にひそめられる眉。


(あ、ヤバい。足んねえ…)


ぼんやりと思うより早くそのまま唇へとキスを落とせば伝わる相手の熱。
もっと感じたくてしばらくそのままでいると、ふるりと瞼が震えた。
とっさに身体を離せば瞼が持ち上がり、焦点の合っていない大きな瞳が露になる。
二、三度瞬きをし完全に覚醒するまで沢村を見つめれば、流石に違和感を覚えたのだろう。怪訝そうに眉がひそめられた。




「……ぅー……ん、ぁ?」

ああ、残念。タイムオーバーだ。

「お早う沢村」
「……ぅ?お早うございます…?」

そんな沢村に何事も無かった様に微笑めば鈍い沢村は気付かない。
先程までの愛おしさは全てしまい込めばいつもの飄々とした御幸一也の出来上がり。
この気持ちを悟られればきっと崩れる捕手投手の関係。
それを甲子園前にむざむざぶち壊す訳にはいかないのだ。


(あーあ。沢村が眠ってる間だけが俺の自由時間だなんて)



「理不尽だよなあ…」

何の脈絡も無く呟かれた言葉に首を傾げる沢村を見て、それでもいつか今の関係を壊す日がくることを何となく確信した。




(ところで何でこんな所で寝てた訳?)
(倉持先輩のスパーリングから逃げてきました)
(倉持テメェ羨ましいィィ!)




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