俺がお前に教える事は何もなくて、
逆に俺が色んな事を教えられていた。
その為だけに今日も頑張る
「先生!煙草吸いすぎると早死にするよ」と、そんな生徒からのブーイングを聞こえない振りして俺は裏庭の木陰に寄りかかり煙草に火を付けた。
何で生徒は俺が此処に向かうと煙草を吸うってしってんだ?
他の教員にはそんなそぶりを見せず「疲れたのでちょっと休んでくる」と伝えているのにそんな噂を立てられちゃクビになっちまうじゃねーか。
まぁ、実際ほんとに吸ってんだけどよ。
「獄寺せーんせ」
「!」
突然横から出てきて煙草を持っていた手を掴まれたので殴りそうになっちまった。
反射って奴だからな。別に俺はお前が嫌いなんじゃない。
昔はすげぇヤンチャしてたからその癖が抜けないでいるんだろうな。
「うわぁ。殴られるかと思った」
「…おめぇが突然出て来るからだろ」
「殴るつもりだったんですね!酷い!」
「あったりめぇだ!生徒だったら脅して黙らせてたぜ。教師でもそうだけどよ」
「顔が凄い事になってたからちょっと言ってみただけなのに…それに脅しちゃだめでしょ!」
元教え子になんで説教受けてんだ…
あんなに頭が悪くて身なりもチャラチャラしていたこいつがよく教員を目指そうとしたな。
馬鹿もやる時はやるんだなぁ。
一週間だけ教育実習をする大学生を紹介された時はすげぇビックリしたぜ。
5人ほどいたんだがすぐにアイツに目が向いた。
こいつ俺にすげぇ付きまとってきてうざかったからよ。嫌ではなかったんだけどな。
「で、何でお前は此処に来たんだよ」
「この場所が生徒にバレている事に気づかない獄寺先生を注意しに来たんですよ」
「げっ!じゃあさっきも誰か見てやがったのか!」
「今は私が追い払ったので大丈夫ですよ。授業始まったので教室に戻ったんじゃないですか?」
「まさかお前に貸しを作るとわな…」
後、3日間この学校で教育実習するんだろ?
その間俺はこいつにゆすられるのか!?最悪だ。
「別に貸しを作ったとは思ってないよ。獄寺先生が辞めさせられちゃったら私が困るんだもん」
「は?何でだよ」
「だって私が教師になってこの学校に入ったら同僚になれるじゃないですか」
「それだけでか?」
「それだけですよ?」
自信満々に恥ずかしげもなく話すこいつが羨ましい。
自分に素直な奴だな。
そう言えば真っ茶色だった髪も黒くなっていてハデだった化粧も薄くなっていた。
こいつはこいつなりにいろいろ努力したのか。
「あ、でもやっぱりお願い一つだけ聞いて下さい」
「俺が犯罪者になるよーな事は無理だからな」
「当り前!もっと簡単です!名前で呼んでください」
「名前で?そんなんでいいのか?」
「勿論です。…もしかして先生私の名前知らなかったりします?」
「知ってるよ。花子だろ」
名前を一度呼んだだけで凄く喜んでいる花子は俺に何を求めているんだか…
「じゃ、これからはお前とかじゃなくて名前ですよ!」
「はいはい。こんなんでいいならいくらでも呼んでやるよ」
お前の名前を忘れるわけねーだろ。
あんなにしつこく付きまとってこられたんだ…
俺だって少しは期待してたんだよ。
「先生!」
「次はなんだよっ!」
「私が教師になったら彼女にしてください」
…あと少しは吸えた煙草を落としてしまった。
空いた口が閉じれなくて何て言葉を返せばいいのかわからなくなった。
それなのに俺の前に居る馬鹿は1人で赤くなって「きゃーっ」と盛り上がっている。
「…だから何で今言うんだよ」
「だ、めですか?」
「そうじゃなくてもっと早く言えなかったのかって、変な事言わせんな!」
「え!?じゃあ、いいんですか!?」
「あったりまえだ。だけどよ、」
首をかしげて不安そうにこちらを見つめる花子はそこまで馬鹿ではなさそうだ。
「教員になったら俺と結婚するんだろ」
「……は、う、えぇえええ!」
「大きな声出すんじゃねぇ!」
「!ごめんなさい…。でもっ」
「だからお前は今日から俺の彼女だ」
お前が生徒から脱出するためにがんばってきたのを俺は知っている。
そんなお前を俺はずっと応援し続けていたんだからな。
(好きです先生!)
(お前はいつも直球だから恥ずかしくなんだよ!)
(お前っていいましたね!はい!罰としてキスしてください)
(調子乗んじゃねぇ!)