この街を出ようと思った。

「銀ちゃん。雪が、降ったヨ」
「おー、そうか。んじゃ、雪山にでも行くか。スキーは無理だけど」

江戸の街で行き交う人々に踏まれた雪は、砂利が混ざって薄茶色に変色して汚かったけれど、ここの雪はどこまでも白く、白く、白く、綺麗で美しい。下り坂になっている方へすこし歩くと、さらさらの斜面に自分の姿が影になって映っていた。ずっと俯いていると、不意に涙が溢れそうになるので咄嗟に空を見上げる。真冬の空は、夏の間よりも色素が薄くて、降り積もった雪を反射しているように見える。

最近は、ひとりでいると、気付いたらいつも同じことを考えている。


(あいってなあに)
(あいってなあに)

銀ちゃんは、ずっと一緒にいてくれた。何も解らずに地球に来て、初めて会った時からずっと。世界で一番大切な、だいすきなだいすきな銀ちゃん。銀ちゃんは、私のすべて。

太陽の光を受けてきらきらと輝く雪を、手のひらいっぱいに掬った。僅かな時間で、全てが溶けてゆく。涙が溢れた。銀ちゃんはきっと、姉御のことがすきなのだろう。ずっと前から、私は知っていた。今はまだ、二人の幸せを心から祈ることができる。そしてそれが叶った時に、笑顔でよかったねと伝えられる。でもこの先は、わからない。春が来て緑が芽吹いた頃には、私の中に嫉妬心や独占欲が生まれているかもしれない。

何もかもが変わらなければいいのにと思う。全てが今のままならば、私が恐れるものなんて何一つないのにと。でも時間は銀ちゃんを自由にして、銀ちゃんも、この先に生まれる銀ちゃんの子供も、年をとる。そして私も。

だから私は、銀ちゃんのもとを離れようと思った。

「…銀ちゃん」
「どうしたァ、お前。こんなとこにひとりで。…寒くないの?」

いつの間にか銀ちゃんが隣にいた。体の半分がすこしだけあたたかくなる。

「なにしてたの」
「…雪、みてたアル」
「ふぅん、そ」

そう言ったきり、銀ちゃんは口を噤んだ。そして黙って、私の側にいてくれる。深い呼吸音が定期的に聞こえてくる。それに合わせて、私も息をする。このぬくもりを、私は手放す。私は誤魔化すように、寒さで赤くなった指先にふう、と息を吹きかけた。視界がぼやけているのは、誰のせいでもない。

さっき眺めていた影は今二つになっている。そのきらきらとした斜面に映る私の姿が、銀ちゃんには見えているだろうか。それは、私には判らないけれど、たぶん。きっと


けれど、小さな雪崩が起きて、全てをさらっ












2012.05.19. misa
landslide / 雪崩

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