保健室の先生と生徒
沖田先生の片想い





















「ほんとはネ、あったかくて、お日さま好きなのヨ」

柔らかそうな桃色の髪が、カーテンの影でゆらゆらとしている。

「でもお日さまはわたしのこと嫌いみたいネ」

なんでわたしお日さまに弱い身体に生まれてしまったの。どうしようもないことを、俺に言う。つい先ほど熱中症になりかけた少女は、俺が困っているとも知らずに、額に乗せた氷の入った袋を右手でたぷたぷともて余している。

「沖田せんせ、聞いてる?」

ぼんやりとした虚ろな目は、まだ体力が回復していないことを忠実に訴えている。それがまるで熱を出したときの子供のようで、かわいいような、男の俺が母性をくすぐられているような、不思議な気持ちになった。

「あぁ、聞いてるぜィ」
「ぐふふ、沖田先生って、やっぱり、しゃべり方変アル」
(ぐふふて…)
「お前に言われたくねェやィ」
「わたしのは天然モノヨ」
「俺のもそうでィ」
「えー、ウソ」
「そっちがウソ」

神楽は変わった子だった。口調や容姿だけでなく、根本的な思想や行動が、他の学生とは違っていた。いじめに合っているとか、孤立しているとかではない。現に神楽はクラスの人気者だ。ただなんとなく、まとう雰囲気が違った。大人びているとは、こういうことを言うのだろうか。

「沖田先生は、生まれ変わったら何になりたい?」
「ん、どうしたィ急に」
「クラスの子たちがネ、話してたのヨ。鳥になりたいとか天才になりたいとか」
「ふぅん」
「ねえねえ、何になりたい?」
「えー…」

特にないと答えると、神楽はつまんないとぶーたれた。ふくれた頬が熟れた桃のようで美味そうだと思った。

「神楽は?」
「ん?」
「生まれ変わったら何になりたい」
「んーとネ…」
「…」
「またわたしに生まれ変わって、同じ人生を歩みたいアル」

喉仏がひくりと動く。何も言えずにベッドに腰掛けている少女を見つめた。正直、面食らった。まだ人生の4分の1も生きてない小さな少女が、悟りを開いた坊主のようなことを言うなんて。喉がカラカラで上手く声が出せない。かすかに射し込む太陽の光が彼女の周りをキラキラと照らして、眩しかった。

「…へェ…」
「あ、今、以外って思ったでショ」
「あー…、うん、てっきり、太陽の光を浴びても大丈夫な身体に生まれたいとか、言うと思った」
「デショデショー。…でもネ、わたし、弱いところも全部含めて、わたしがすきなのヨ」

この子はどんな気持ちでこれまでの日常を過ごしてきたのだろうと、途方もないことを考えてしまった。寂しげな首すじは何も語ってはくれない。俺と神楽には、きっと教師と生徒という関係以上に距離がある。

「ね、せんせ、わたしちょっと寝るアル」
「おー。次のチャイム鳴る頃に起こすぜィ」
「ありがと。おやすみなさい」
「おやすみ」

控えめにカーテンを閉める音にさえいとおしさを感じてしまった。彼女をもっと知りたいと思った。




















2012.08.07. misa
むゅー、お目汚し申し訳ないです
おませさんな神楽ちゃんが好きです

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