世界政府直下“海軍本部”に、背中に正義を掲げる十数人が集まった。
どうしてだか昔からお世話になっているガープに呼び出され、数々の偉いさん方と肩を並べた茜は居心地悪そうに正座をし直した。
元々こんな所に呼び出されるような役職でも無いのだ。
中佐という確かに一兵士よりは高い地位には居るが、このメンバーの中で中尉等という地位は底辺も底辺。
どうしてコイツがいるんだ?という周りからの視線を受け茜は身体を縮こませる。

呼び出された内容というのが、新しい指名手配犯――――つまりは海賊の手配書の事についてだ。

“道化のバギー”千五百万
海賊艦隊提督“首領・クリーク”千七百万
魚人海賊団“ノコギリのアーロン”二千万
どれも手配書には悪人顔で写っており、堅気だと言われても信じれないだろう。
そんな三人を、倒した男が居るらしい。

「――懸賞金アベレージ三百万ベリーの“東の海”でいずれも一千万の大台を越える大物海賊ですが粉砕されています」

この会議を進めるのは海軍本部少佐ブランニューだ。
話を聞きながら、そんなに恐ろしく強いルーキーが居るのかと茜は目をパチパチと瞬かせた。

「初頭の手配から三千万ベリーは世界的にも異例の破格ですが決して高くはないと判断しています。こういう悪の芽は早めにつんで ゆくゆくの拡大を防がねば!!!」

ブランニューがそう言いながら机に叩きつけた新しい手配書には、どうみても“悪の芽”には見えない満面の笑みの、麦わら帽子がトレードマークの海賊。
見覚えがある、というかありすぎるその顔に、茜は頭のてっぺんからつま先まで、まるで雷に撃たれような衝撃に固まった。
モンキー・D・ルフィ……それは、茜の師ガープと同じ性を持つ者であり、東の海で共に過ごした“兄弟”だ。
相変わらず元気そうにしているようだと、茜は人知れず安堵する。

「逃げたい奴は今すぐ逃げ出せ!ここは一切の弱みを許さぬ海賊時代の『平和』の砦っ!! 民衆がか弱いことは罪ではない!正義はここにある!強靭な悪が海にあるならば 我々海軍がそれを全力で駆逐せねばならんのだ!“絶対的正義”の名のもとに!」
「はっ!」

絶対的に海賊が“悪”で海軍が“正義”なのか?
それは茜にはわからない。
海軍という立場を利用して悪さをする輩が居る。海賊だろうと心優しき人たちが居る。
それを茜は知っている。
しかし、自分は、海軍が“正義”だと信じて此処に来た。大切な人を守るために海軍になった。
我らが背負うは“正義”の二文字。
自分が信じた“正義”を全うしに、茜は此処に居る。


*******


『ローグタウン』
別名“始まりと終わりの町”
かつての海賊王、G・ロジャーが生まれ、そして処刑された町。
その町の中心に、処刑台がある。
雑踏の中で、黄金の髪を靡かせながら処刑台を見つめる少女が一人。
名を、薫。

「此処が……G・ロジャーが死んだ場所……………」

G・ロジャーは死ぬ間際、確かに笑ったと言われている。
かの海賊王が何を思ったのか、薫には分からない。
けれどここは、ここは―――

「海賊時代の始まりの場所だ」

そう、海賊時代の始まりの場所――――――

「……ん?」
「ん?」

まるで心を読まれたみたいだ。
薫はドキッとして声のした方をみやると、麦わら帽子を被った、目の下に傷がある少年。

今のは少年の言葉なのだろうか。

「誰だお前」
「ん?アタシは薫!そっちこそ誰?名前は?」
「おれはルフィだ!モンキー・D・ルフィ!」
「へぇ……」

ルフィと名乗った少年は、ニヒヒと歯を見せて笑った。
人柄の良さそうな笑顔だ。薫も同じように歯を見せて笑う。

「お前もコレ見に来たのか?」

ルフィが見上げるは処刑台。
つられて薫も見上げた。

「………うん。そうだよ。コレを見に来たの」

“偉大なる航海”に入る前に、必ず一度は見ておきたかった。
史上で最も偉大な海賊が産まれ、そして死んだ地を。










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