(フーカが赤い月で帰るお話)
ざわり、風が靡いた気がした。真っ暗な闇の中、沢山のプリニーと赤い月、そしてフーカちゃん。
『こんな所で何してるのフーカちゃん』
「……名前」
『早く帰ろう?風邪ひいちゃうよ』
「………帰るわよ、人間界にね」
ざわり、また風が靡いた。これは、いったいどういう事なんだろうか、
帰る?人間界に?なんでどうして、確かにフーカちゃんはなり損ないでもプリニーで、でもフーカちゃんはその事実を認めて無いはずだ。なのに転生なんて、誰か嘘だと言って。これは夢なんだと、笑って吹き飛ばして
『な、んで、いきなり、』
「もうね、いい加減死んだって事を認めて、新しい人生を謳歌するのも悪くないなって」
『、』
「正直もう飽きちゃったのよね」
『フーカちゃ、』
「世話になったわね」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
フーカちゃんは私の初めての友達で、大切な人で、かけがえのない、私の、初恋の人
『ダメ、駄目だよフーカちゃん。フーカちゃんは、私と一緒に、』
「もう遅いわよ名前。ヘルは充分貯まったの」
『やだ、フーカちゃん………』
ドサリ、その場に膝から崩れ落ちる。服が汚れるとか、膝が痛いだとか、今はそんな事どうでもいい。心が痛い。フーカちゃんの言葉は、鋭利なナイフの用に私の心に突き刺さる。
ドクドクドク、心臓から大量の血液と涙が流れているような、そんな感覚に陥る。
「……泣かないでよ、行きにくいでしょ」
ならば行かなければ良い。一生、私と一緒に笑ってくれていればそれで良いのだ。
「ほら、ちゃんと立ちなさいよ。アンタ、私より大人でしょ」
『ぅ、』
「アンタはもう、私が居なくてもやってけるじゃない。大丈夫よ」
『そ、んな、私にはフーカちゃんが、』
「バイバイ、名前」
『っ、フーカちゃん!!』
ふわり、フーカちゃんの身体が浮いて月に向かっていく。駄目だ、必死に手を伸ばしてフーカちゃんの足を掴む。
「離しなさいよ」
『ッ、やだ!!』
だって、離したらフーカちゃんは行ってしまうのだ。私の手の届かない所に。運命なんて信じない、もう一度会える保証なんて無いのだ。
「離してって、言ってんの!」
フーカちゃんが足をブン、と振る。それだけで簡単に振り払われる私は、自身を心底恨んだ。こんなことなら、もっと訓練して強くなれば良かった
私が引き留めていたフーカちゃんは、そのまま重力に逆らって月に向かっていく。
「バイバイ名前、世話になったわね」
『ま、って』
「ありがとう。楽しかったわ」
『ッ、』
ならどうしてそんな淋しそうな顔をするの。フーカちゃんにはそんな笑顔じゃなくて、心の底からの楽しそうな笑顔が似合ってる。
私がどれだけ引き留めても行ってしまうと言うならば、せめて、
『わ、たしも……楽しかった!!フーカちゃんに会えて、良かった!!』
聞こえたかなんて分からない。だけど、最後に見えたフーカちゃんは、私の大好きな笑顔で笑っていた