ひんやりとした風が名前の全身を撫でる。
普段は畳まれている自慢の白い翼を広げ悠々と空を飛び回る。

天使が悪魔のお祭りを祝ったっていいだろう。

目的地は、堕転した元部下の所だ。




「ちょっと!なんで名前ちゃんが魔界に居るわけぇ!?」

「あらー、名前さんお久しぶりです」


騒ぐエトナと呑気に挨拶するフロンに苦笑いする。
こんなのでよく一緒に暮らせている物だ。


『別にぃ?敢えて言うなら、悪魔のお祭りを祝いに来てやったのよ、天使様が』

「……あいっかわらず偉そうね!よくそんなんで天使になれたものだわ!」

『あらあら皮肉ですかエトナさん?』


クスクスと笑えばエトナが名前に掴みかかる。
悪魔は直ぐに手が出るな、と鼻で笑えばフロンが慌てて止めに入った。


「止めてください二人とも!」



ウォッホン、とフロンが咳払いをする。その表情は真剣そのものだ。


「それで?名前さんはどうして魔界に?」

『だーかーらー私自ら悪魔のお祭りを祝いに来てあげたのよ』


交流は大切よ、とウインクする名前に冷たい視線が突き刺さる


「それがワケわかんないんだってば!あとなんで偉そうなのよ!」

『あれ?今日はハロウィンだよね?悪魔の祭典の』

「あぁ…名前さんお菓子貰いに来たんですね〜!」


ニコニコ、とこの魔界では異様な堕天使の笑顔は魔界じゃなくともこの空気では異様である。
コイツも変わらないな、と名前はフロンを見つめた。


「そう言うこと…プリニー!」

「はいッス!」


エトナがプリニーを呼べば近くにいたプリニーが一斉に集まってくる。
仮装などせずとも悪魔の羽根が生えたプリニーは可愛らしい。


「お菓子なんていくらでもあげるから早く帰りなさいよ。シッシッ」

「お菓子ならあるッスよ〜!」

「わぁ、たくさんあるんですね!」

『美味しそうだね』


プリニーの数と比例して増えていくお菓子は早速山になっている。
これは美味しそうだ。と名前は舌なめずりをする。


『でも残念、お菓子はまた今度貰うよ』


しかし、今日はプリニーからお菓子を貰いに来た訳ではない。
名前は地べたから立ち上がり衣服に付いた埃を払う。
持っていたカバンに手を突っ込めばみんなが不思議そうに名前を見た。
にやり、と笑ってカバンごとフロンに投げつける。
見事顔面でキャッチしたフロンはそのままカバンを落としてしまう。
開けっ放しのカバンから溢れ出た中身は、


「……お菓子?」


たくさんの色とりどりなお菓子。
美味しそうッス、とプリニーがよだれを垂らす。


「…あ、ありが……っていない!?」


お礼を言おうと名前を見ればそこに姿は無く既に屋敷の方へと歩き出していた。

やっぱヤな奴。

エトナは鼻を鳴らした。




長い長い廊下を歩けば見慣れた一室。
一寸の迷いもなく開ければ偉そうに玉座に座る悪魔…………魔王が居た。


「遅いぞエトナ!一体どれだけおれさまを…………名前?」


さっきの怒号はどこへやら。きょとんとしたラハールはまだ幼く可愛らしい。
名前の口元が緩やかな弧を描く


『やぁラハールくん!久しいね。いや、今は魔王様とお呼びした方が?』


わざとらしく腰を曲げて挨拶をすればラハールの決して良いとは言えない目付きが更に悪くなった。


「くだらん挨拶は要らん。どうして貴様がおれさまの魔界に居る?」

『あらぁ、私が気まぐれだって知ってる癖に』

「……」


クスクスと笑う名前にラハールの頬がほんのり朱に染まる。
コツリ、と名前の靴と床が音を鳴らす。


『今日はあなた達悪魔のお祭りだから、祝いに来たのよ』

「はぁ?………なるほど、今日はハロウィンだな。」

『そうそう!』


ラハールの隣に立てば必然的に彼が見上げる形になる。
マフラーとお揃いの赤い目は美しい。
名前はラハールに手を伸ばす


「それで?ならお菓子でも配りに来たのか?このおれさまに!!」

『そーよ。でも違う』


割と綺麗なラハールの肌に名前の白くて細い指が触れた。
ラハールはぴくり、と反応したがそれだけだ。
くい、と顎を持ち上げ顔を近付ければラハールの驚いた顔が視界いっぱいに広がる。


『お菓子はね、フロン達に配ってきたわ』

「このおれさまを差し置いてか!?」

『えぇ。その代わり、ラハールくんにはもっと良いものをあげるよ』

「良いもの、だと?」


この状況で何も感じないのは、ラハールが子供だからか、それとも分からないフリをしているからか。
それは名前には分からない。分かろうとも思わないし、望み通りにしてあげる気も無い。


『そ。イーもの』


ラハールが喉を鳴らした。
ニヤリと笑って飴をその薄い唇に押し付けてやれば呆然とした顔に名前は爆笑した



『どー?名前ちゃんから特別に食べさせて貰った感想は?』

「………最悪だな」







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ハッピーハロウィン!!!!




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