∵吐息も絶える真夜中のこと



受話器の向こう。
大好きな人の、大切な人の声がする。


『朝ね、部長に誉められたんだ。』
「そうなんだ。明野いつも頑張ってるもんね」
『うん。厳しいけど尊敬してる人だから、嬉しかったの』


遠く離れているけど彼女の顔が思い浮かぶ。今ごろ大好きな紅茶を飲んで、お気に入りの椅子に座って、嬉しそうに笑っているんだろう。
もうずっと会ってない俺達は、この電話している時間が唯一の繋がり。お互い忙しいから本当に短い間だけどこの時間が一番の幸福だと思える。嫌なことだって忘れてられる。


『もう結構会ってないよね』
「うわ、今同じこと考えてた」
『ちょっと。うわって何ようわって』
「明野と一緒だったことにうわー」
『うわひどーい』


いつもの馬鹿みたいな会話。こうしてると、明野が近くにいるように感じる。
こうやって多分お互い寂しさを埋めてるのだ。
会えない寂しさを、気付かないフリしてる。


『でね、部長に言われたのよ。皆勤賞だねって』
「うん」
『あんまり働き詰めも疲れるだろうし少しは休んでもいいよって』
「良い上司だね。取り替えてほしい」
『綱吉の場合上司じゃなくて家庭教師じゃん』
「まあね」


家に向かう帰り道。
片手に携帯電話を持って彼女の話を聞きながら歩く。
人にすれ違ったりするけど、自然に笑みが浮かぶのは仕方ない。彼女の顔を思い浮かべながら話しを聞いた。


『だから休むことにしたの。二週間ちょい』
「へえ、じゃあゆっくり休みなよ。明野風邪引かないから休むことなんて本当ないし」


住んでいるマンションまでたどり着き、エレベーターに乗る。
電話はいつも俺が家に着いたら終わる。エレベーターを降りたらすぐだから、今日の幸福な時間はもう少しで終わる。


『んん、ちょっと待って。その風邪引かないってさ…』
「馬鹿はなんとやらって言うじゃん」
『やっぱりか!』


ぎゃーぎゃーと受話器の向こうで抗議する声。「はいはい、悪かった」と言うと心がこもってないと怒られた。
エレベーターから降り、ドアに鍵を差し込む。



ガチャッ

「―――え?」
「『せっかく来てあげたのに、綱吉は本当に冷たいね』」


受話器の向こう
そして、直に耳に入ってくる声。

予想外のことに驚く綱吉に、明野は笑顔で抱き着いた。


吐息も絶える真夜中のこと



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藤咲様から頂いた相互
記念小説のツナの切夢
です。最後の方はキュ
ンとしていて胸のドキ
ドキがとまりません←
どどどしよう。
素敵小説本当にありが
とうございました!
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