上陸した島の砂浜はそれはそれは綺麗な砂浜で、海も青なのに青じゃなくて、普通じゃない、リゾートビーチだった。


至るところに、ビキニのお姉さんや、超際どい、ブーメランを着てやがる野郎もいた。別に、てめェがそんなん着ても誰も望んじゃいねェよ。もっこりしてるその、一部分しか隠せていない。いや、隠せているとも言いがたい。確かに見えていないのはいないが、形は丸見えだ。




「き!れ!い!!!マルコ隊長!きれい!」

「あァ。きれいだよい、お前も」

「! ま、マルコ隊長…っ!そんな…!」

「おい!やめろ、マルコ!どさくさ紛れで…っ」

「エースはうるせェよい」





おれとマルコの間で、呑気な笑顔でいる彼女。そんな彼女の腰に回されそうになる腕を、ぺいっと剥がし、彼女の肩を抱いて、自分の方に引き寄せる。マルコは、おれに対する話し口調だが、目線はおれに肩を抱かれているいつもと違う格好の彼女へ。







「てか、何なんだよこの格好は!しかも、隠せてるようで隠せてねェ!」





「?(隠せてるけど…?) あのね、ナースさんたちが、今回は綺麗な砂浜もあるし海には入れないけど折角だし雰囲気くらい味わっておいで、って!」

「(ナースたちもよくやるよい…どうせ楽しんでるだけだ)…あん中に入るってことかよい?」

「はい!だって、折角ですし!」





「待て待て待て。お前、それ、本気で言ってんのか?お前のことをエロい目で見る連中がどんだけいると思ってんだ!見てみろよ!あんな薄い布切れで隠してるだけ、いや、イチモツ隠せてないの男たちがウヨウヨいんだぞ!しかも、お前、自分が今、どんな格好してるか分かってんのか!いいか?!男はみんな野獣だっていつも言ってるだろ!「とうさまー!海に入らなかったら行っても良いですか?」「あァ、いいぞ。おお…似合ってんなァ…流石、自慢の娘よ!!グララララ!行ってこい!」「わーい!」お前のこと放り出すわけ、に、は…っておい!オヤジ!なに言ってんだよ!」





「エース…てめェの手に握られてる花柄のそれは何だよい」

「!いや、そのっ…これは!着せたかったとかじゃなくてだな、」

「馬鹿息子!お前も早く行かねェとアイツに悪ィ虫が付くだろうが。早く行け!」


「オヤジ…!行ってくる!」






前々から、アイツに着せようと購入していた花柄のホルターネックのそれを、マルコにドンッ!と無理矢理押し付け、オヤジの豪快な笑い声とマルコの盛大な溜め息を背に、船を降りていった彼女を追いかけた。




花柄のそれも似合うとは思うが、さすがに黒のそれで来るとは思わなかった。彼女の肌は、真っ白とは言えないにしても黒のビキニはその肌をどうにも映えさせていて、そのビキニに合わせたゴールドのネックレスとアンクレット。もうセンスがいいとしか言えない。



極めつけに、アップにしたロングヘア。

これはどういうことだ。ナースたちが謀って、彼女に手を加えたりして、俺たちの反応を楽しもうとやっていることだとは分かっているが、おれは単純な男だから、もう既に、うっはうはなっちゃってるわけで。

あーいや、さすがに下半身はまだ大丈夫です。



彼女に視界に捉えると、嗚呼、どうにも彼女は眩しすぎる…!クソ!なんだよ、こんなん太陽なんて比じゃねえ!!とか思ってると、追い付いて、彼女は目の前に。



「!!! えっ、エース!?」

「捕まえた」



後ろから、ぎゅうっと捕まえると、柔らかい感触。驚いた彼女は足を止めて、その可愛い声でおれの声を呼ぶ。抱き締めて抱き締めて、鼻腔を彼女の匂いでいっぱいにする。その甘い香りはおれを酔わせるから好きだ。素肌に触れると、おれの心臓はドクンと跳ねた。

このままずっと、ずっと抱き締めていたい。




「エエエエースっ」

「んあ?」

「は、恥ずかしいから、…離してよぅ…」



可愛いなあもう!!!何なんだよ。おれを誘ってんのか。そうか誘ってんのか。喰ってほしいのか?ん?よし、今から喰ってやるから、ちょっと待ってろよ。 今から、抱えて船に連れて帰ってやる。



「って、いねェし!」


いつの間にかおれの腕の中から抜けており、また目の前をパタパタと走っている姿が見える。まあ仕方ない。こうやってはしゃぐ姿もあまり見れない珍しいもののため、急いで走って、彼女の隣に並んで腰に手を回し、雰囲気に飲まれてみることに。






「海入れて楽しそう」

「だな。あ、なんか食うか?」



切なく笑う彼女の気が紛れるようにと、焼きそばやお好み焼き、たこ焼き、かき氷等々を売っている小屋を指差す。たくさんの人が集っているその建物に促す。え、おれ金持ってねェ。この雰囲気って、食い逃げできる感じじゃなくね?



「わたし、ソフトクリーム!エースは?」

「あー、金持ってねェからいいや」

「いいよ、わたしが払うから!」

「いや、男が奢られるなんざカッコ悪ィだろ」


ぐうううう


空気を読むのか読まないのか、おれの腹の虫は盛大に鳴いて、彼女はおれを見て、ニコッと微笑みかける。ほら、日頃のお返しだよ。と建物におれを誘導する彼女。彼氏としての顔が全く立たん。こんなことなら財布持ってくるべきだった。数分前までの自分を叱りつけながら、彼女の足が進む先におれも歩んでいく。

















「あついねー」

「…」

「?あれ?なんか人、増えてきたね」

「…」

「…エース?む、無視?」





おい、何なんだ。この、さっきから群がる奴等は。

おれたちは、ただ、海で遊んでいる子どもたちや親子、カップルを遠巻きに眺めながら、ソフトクリーム(おれは焼きそばなど)を食べていただけだ。

そして、食べ終わると、こうなっていた。中には、ブーメラン野郎もいるわけで、彼女にはあまり見せたくない光景である。(ゴミ捨ててくるね、なんて言って5メートル先まで歩いただけなのに男が寄り付きそうだった)(もちろんおれが威圧した)




こんな奴等に易々と彼女の素肌を見せてたまるか、と思い、しばらく前から、大きめのバスタオル(彼女が持ってきていた)を羽織らせてはあるが、なんだか嫌だ、嫌すぎる。こんな奴等に、こんな可愛いこいつの姿、脳裏に焼き付かせておきたくない。おれだけが知って、おれだけが覚えていればいい。

おれのものなんだ、おれだけがすべてを把握していればいい。


まあ、男も女も関係なく睨んでいると、ほとんどは散ってくれるから助かる。



「むう」

「何してんだよ」


おれの眉間を人差し指と親指で伸ばす指。可愛らしい声付き。
こんな姿、名前も知らねェ男が知ってるだなんてマジで嫌だ。こいつのどんな表情も声色も香りも独占したいのに。あーすっげえムカつく。



「えーす、こわい顔してた、か、…ん?雨?」





ぽつり。



正座を崩した座り方をした彼女の膝には一滴の水。空を見上げれば、さっきまでの晴天はどこへやら。そんなに暑くないと思っていたら、みるみるうちに灰色の雨雲が空を覆い、気温も下がる。



「やべェ…こりゃ降りそうだな、」


なかなかキそうな雨に、おれは彼女の手を取り、立ち上がらせ、近くに雨宿り出来そうな大きな岩場を見つけたおれたちは、そこへ向かって走った。








続く

top



- ナノ -