続き あれからマルコの部屋を出て、彼女の手を引いて、おれの部屋に来た。 来る途中、べ、別に何もないからね?とか後ろで言っているが聞く耳を持たないおれ。 無言の二人。部屋に突っ立ったまま、時間が流れてく。彼女からしたら、居心地が悪いって、まさに今だろうな。けど、今、おれがどんな気持ちを抱えているかとか、何を考えているかなんて、コイツには何一つ分からないだろう。 所詮アレは夢だった。 しかし、おれ以外の男がコイツに触れているのを見るのは、本当に腹が立った。 どうしようもないほど、ムカついた。 マルコにそんな気がないことも、彼女にそんな気がないことも、とっくに分かってるはずなのに。それを信用できない自分にいちばんムカついてる。 「エース…?」 「…」 「あの、マルコ隊長にはなにもされてないからね?あーいや、何もされてないわけじゃないけど…なんというか、」 「何が言いてェんだ」 「いや、これは、その… わわっ!」 歯切れの悪い返事しかしない彼女の肩を押して、ベッドに押し倒す。長い髪の毛が、広がる。困った顔。おれをまっすぐ見つめる涙目。 なんだよ、夢ん中ではマルコにこんな顔も見せてたって言うのか。 「マルコと何してた?」 「…」 「言えねェようなことしてたのか」 「いや、ちが、」 「だったら、何なんだ?」 数秒間睨み合うと、おれの勝ち。彼女は折れて、話すからそんなこわい顔しないで、と俺から目線を外す。 「エースがいつも疲れてるなぁと思って、マッサージのお勉強しようとしたの。だから、マルコ隊長に頼み込んで、練習に付き合ってもらうことになって…」 「…おれのため?…でも、やってもらってただろ」 「うん。そうなんだけど、やるからには、ちゃんと効くのをやりたいし」 「だから、やってもらってた、ってわけか」 「うん、そうだよ?」 ケロッとした顔で俺を見る彼女に、ため息が出た。 おれは、至高の昼寝タイムをあんな夢で起こされて、ただでさえ、気が気じゃねェ時だったのに更にあんな会話聞いて、なんだよ、それ。完全におれが一人でてんやわんやしてただけじゃねェか。おれのこんな気も知らないで、本当にマイペースなヤツだ。 「なんだそれ…」 出来れば、あまり不安にさせないでほしい。夢のことは置いといて、おれのためにって考えてくれるのはすげー嬉しいけど、今回みたいにマルコに協力を頼んだりするのは、ダメだ。 彼女がよくてもおれが許さない。 「うっ…お、重い…」 立てていた腕をゆっくり折って、彼女の上に覆い被さったら、正直、いちばんに、胸の柔らかい感触。 「気持ちは嬉しい。けど」 「けど?」 「マルコはダメだ」 「え?なんで?」 「なんでも」 「………ヤキモチ?」 あァと、間を溜めて返事をすると、下にいる彼女に急に背中に手を回される。 「エース、だいすき!」 「はっ…はあ!?なんだよ、急に!」 「マルコ隊長にマッサージしてもらってるわたしを見て、嫉妬してくれたんでしょ?…嬉しい。でも、わたしが好きなのは、エースだけだからね」 へへへ、と照れくさそうな、笑い方でまた、おれの心臓をぐっと掴まえる。あーもうなんなんだコイツは。自分が格好悪すぎる。勝手に嫉妬して、勝手に苛立って、こうやって、いきなりベッドに押し倒したおれ。そんなおれを、その暖かく包容力のある腕で抱き締めて、好きだと言ってくれて、好きなのはおれだけなんて言ってくれて、 どんだけ幸せなんだよ…おれ 信用してなかったわけじゃないが、少しでも疑ったのは事実。彼女を責めるのは可笑しいし、実際好きだと言われただけで、なにもかも吹っ飛んだ。 嗚呼、男って単純だなァと思った。 いつもこうやって、幸せにされてばっかりだ。そう感じるとすぐに喉からその言葉は出ていくわけで。 「おれは、お前を幸せにする」 「え?…何がどうなってそうなったの?」 彼女の上から退いて、隣にぼすん、と寝転がる。ふう、と息をついてから、横を向いて彼女を抱き締めて、自分の胸に押し付けると彼女から寄ってきた。 そうか、心配なんて不安なんて要らない。 例え、あんな悪夢を見ようとも、それはただ夢のはなし。彼女はおれを好いていてくれることは揺るぎない真実だから、 おれは、安心してコイツを幸せにしてやろうと、思う。 「そんなこともあったねー。幸せにするって、いきなり言われてビックリしちゃった」 「でも、あの日、おれがこんな夢を見てただなんて知らなかっただろ」 「うん。まあ、まずあり得ないけどね!そして、夢の中までそんなので溢れてるエースはもっとあり得ないけどね!!!!」 「は!?なんでそうなるんだよ!てか、どこいくんだよ!」 「マルコ隊長の部屋行ってくる!!!!!」 「いや、待て!それは待てって!!!!!!!」 ← top → |